ネガティブフィードバックができない会社は、従業員の成長が止まり、技術革新や事業拡大が困難となり、最悪の場合、倒産してしまう可能性があります。
本コラムでは、ネガティブフィードバックの重要性に加えて、「なぜ管理職やリーダーには、ネガティブフィードバックが求められるのか」という点を中心に解説します。
ネガティブフィードバックとは
ネガティブフィードバックとは、被評価者の行動の問題点を指摘し、改善を促すフィードバック方法です。元々、被評価者にとって望ましくない内容のフィードバックとも呼ばれます。
より良い成果のために被評価者の行動への評価を伝える「フィードバック」のうち、被評価者の問題点を強調して指摘し、改善を促す手法でもあります。
ネガティブフィードバックでは、相手の課題を直接指し示すことができますが、相手にとって耳が痛い内容であることが多いため、人格を否定する、やる気を損なうような言い方を避けなければなりません。
ネガティブフィードバックのメリットには、部下の成長が期待できることや従業員エンゲージメントの向上につながることが挙げられます。
ただし、客観的に具体的な行動を示して、しっかり伝えるコミュニケーション能力が必要です。
ネガティブフィードバックは、正しく活用すれば人材育成のための効果的なアプローチになるため、近年、再び注目を集めています。
ネガティブフィードバックに踏み切れない企業の末路
近年、ハラスメントや劣悪な労働環境による不幸な事件が起きている背景から、さまざまな規制が強化され、労働環境の適正化が進んでいます。
一方で、そうした規制を良いことに「モンスター社員」と呼ばれる部下の存在も注目を集めるようになりました。
その結果、上司にあたる管理職やリーダーは、本来必要である育成や指導に慎重になりすぎ、会社全体の人材育成に支障が生じる事態が起きています。
こうした企業は、一見、ホワイト企業と思われがちですが、実態は「30代、40代の管理職以上が夜遅くまで仕事して、新入社員が定時に帰る」という「ゆるブラック企業」です。
こうした企業や新入社員が10年後、15年後にどうなるかは懸命な経営者であれば、容易に想像がつくはずです。
ハラスメントや長時間労働など労務関連の法令遵守はすべての企業における義務です。本サイト及び運営者では、職場環境の悪化につながる法令を遵守しない経営、人材育成は撲滅すべきとの立場です。
ネガティブフィードバックがなければ、優秀な人材は離脱する
ネガティブフィードバックをしない企業は「未来の働かないおじさん」を量産するだけでなく、優秀な人材がどんどん離職してきます。
永遠の課題である「最近の若者はすぐに会社を辞める」という言葉は、すでに神話となっており、いつの時代も若者の早期離職の割合(新卒入社が3年以内に退職する割合)は変わりません。
20代の社会人であるゆとり世代、Z世代の多くは、危機感を持ち自己研磨に励む人材と、大企業病とも言える「入社してしまえば、一生安泰。面倒を見てください」という人材に顕著に分かれていると考えられます。
前者の若くて優秀な人材はしっかりと指導やフィードバックをしてくれない会社や上司に対して、「この会社にいて大丈夫かな?」「この上司のもとで働いていて大丈夫かな?」という思いを持ちがちです。
当然、ネガティブフィードバックを受ける機会がない前者のような優秀な人材は、より自分しか持ち得ない専門スキルを身につけるべく、今いる会社を離職し、新しい環境へと流れていきます。
一方で、後者のような人材はそのまま30代に突入し、管理職やリーダー職につく(現在では、管理職やリーダー職への昇進すら断る)頃には、事業や抱える部下を自律的かつ自発的に推進することができない人材へと化してしまいます。
ネガティブフィードバックがない職場は会社だけでなく、従業員すらも不幸にしてしまう環境といえます。
- 親にも上司にも怒られたことがないため、他に学べない思考に陥る
- 偽物の自己肯定感が育てられている
- できる仕事しか与えられていないのに「できた」と思い込んでしまう
成長意欲の高いZ世代はグッドブラック企業へ行く
大橋高広の著書である「バカはブラック企業に入りなさい」にもご紹介していますが、仕事はキツいけど、社員を育ててくれる一人前にしようという体制が整っている「グッドブラック企業」と、嫌がらせや給与の未払い、上司の横暴、社員をコマのように扱うなど問題のある、コンプライアンス重視のホワイト企業体質といった「バッドブラック企業」が存在します。
特に「休め」「帰れ」の一辺倒で単に働く時間を短縮しているだけでのバッドブラック企業では、仕事での成長の機会は奪われるため、優秀で勘の良いZ世代は進んで退職していきます。
こうした状況を防ぐためにも、管理職やリーダーは効果的かつコンプライアンスを重視したネガティブフィードバックが求められます。
管理職が知っておきたいネガティブフィードバックのメソッド
部下の育成や指導の役割を持つ管理職やリーダーがネガティブフィードバックをする上で知っておくべきポイントがいくつかあります。
- アメとムチという2つのフィードバック
- ネガティブフィードバックの目的を明確にする
- 信頼関係を構築することが前提
- 記録した具体的な事実とともに伝える
- 人格否定や責任の押し付け、追い詰める発言をしない
- 言いにくいことを伝えるアサーティブコミュニケーション
- スパルタ教育との違いを確認する
アメとムチという2つのフィードバック
ネガティブフィードバックは必ずポジティブフィードバックとセットで行う必要があります。
言いにくいことを指摘することが中心となるため、部下との信頼関係を維持するためにも必ずポジティブフィードバックとともに伝えることが大切です。
また、伝える順番はネガティブフィードバックを最初に行い、ポジティブフィードバックで締めます。
最後にポジティブフィードバックを伝えることで、社員のモチベーションを維持することが可能です。
信頼関係を構築することが大前提
優秀な部下やチームメンバーを育成する上で、効果的なフィードバックを行うためには上司と部下との信頼関係が構築してあることが重要です。
また、ネガティブフィードバックは上司も言いにくいこと、そして本人の耳にとって、痛い内容となるため、ポジティブフィードバックよりも信頼関係が構築されていなければなりません。
しかし、会社の評価基準が曖昧な場合、適切な人事評価ができない可能性があります。
その場合、事前に評価基準を上司と部下の間で合意を作っておき、その合意の上でネガティブフィードバックを行いましょう。
記録した具体的な事実とともに伝える
ネガティブフィードバックでは、部下に納得感を感じさせるためにも、必ず具体的な事実や行動とともに伝えなければなりません。
部下本人がその行動に気づいていない場合にも、具体的な事実を伝えることは本人の気づきにもつながります。
管理職やリーダーは普段から部下の行動を観察し、フィードバック時に伝えられるように日頃から記録しておくことが大切です。
人格否定や責任の押し付け、追い詰める発言をしない
ネガティブフィードバックでは、人格否定や責任の押し付け、追い詰める発言は絶対におこってはいけません。
こうした行為はハラスメントに抵触し、会社や管理職だけでなく、被評価者にも重大な悪影響を与えます。
ネガティブフィードバックは人材育成をするための手法であって、部下を追い込むための手段ではありません。
1on1ミーティングを活用する
ネガティブフィードバックは必ず個別に行います。
また、ネガティブフィードバックは早く伝えるほうが効果が高いため、定期的に行っている1on1ミーティングで伝えることがおすすめです。
中小企業の管理職の方の中には「普段から日常会話をしているから1on1面談は必要ない」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、周りへの配慮が必要なネガティブフィードバックを実施するには、1on1面談は必ず実施しなければなりません。
言いにくいことを伝えるアサーティブコミュニケーション
言いにくいことを伝えるには、アサーティブコミュニケーションが最適です。アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重しつつ、自分の意見を伝えるコミュニケーション方法です。
アサーティブコミュニケーションでは、意見を述べる際に事実と主観を分けて考えることに重きを置くため、ネイティブフィードバックと相性が良いといえます。
スパルタ教育との違い
昭和生まれの経営者や管理職の中には、ネガティブフィードバックとスパルタ教育を混同している方も少なくありません。
スパルタ教育は「上のものが下のものを厳しく育てる」という一種の主従関係が存在してしまい、現在の労働環境では御法度となるパワハラ(パワーハラスメント)に分類される恐れがあります。
そのため、ネガティブフィードバックはスパルタ教育ではなく、あくまで部下が自発的に成長していく上で必要なフィードバックの一種と認識しておく必要があります。
今一度、ハラスメントの定義を押さえていくことが大切です。
【参考】ハラスメントの定義│厚生労働省
大橋高広の中小企業向け管理職・若手リーダー研修とは
大橋高広が提供する管理職・若手リーダー研修では、優秀な人材の育成・定着を促せる管理職や若手リーダーに特化した人材育成研修です。
日本の職場では実務スキルの高さや実務の成果に基づいて昇格していることがほとんどで、マネジメント適性に基づいて昇格しているケースはほとんどありません。
管理職・若手リーダーに『学び』と『気付き』を与えて行動を引き出すことを重視する研修で、中小企業にとって、最も必要とされている人材育成投資といえます。
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働き方改革や心理的安全性、ハラスメント規制強化など従業員にとって、働きやすい職場環境が整いつつある一方で、「上司が部下を怒れない」という本末転倒な現象も起きています。