多くの方は、「ヒト」とお答えになると思います。
それでは、この質問ではどうでしょうか。
「ヒト・モノ・カネ」の中で最も優先的に投資しているのは何か?
もし、この質問に自信を持って「ヒト」と答えることができない方は、「人事部」のメリットを具体的にイメージできていない方なのではないでしょうか。
会社は「カネ」が無ければ倒産します。
また「モノ」が無ければ製品をつくることはできません。
従って、創業当初はどうしても「カネ・モノ・ヒト」という優先順位になってしまう傾向があります。
ある意味で仕方がないことだと思いますが、会社として更なる成長を目指すためには、どこかの段階で「ヒト・モノ・カネ」に優先順位を戻さなければならないのです。
これは決して理想論ではありません。
今回は、人事部の仕事がつくりだす具体的な7つのメリットを紹介していきたいと思います。
社員のモチベーションがアップする
社員のモチベーションに苦心している社長は多いと思います。
各地で実施されている、いわゆる「モチベーションアップ研修」も盛況のようです。
中には助成金が給付される研修もあるため、これから参加を検討している社長も多いのではないでしょうか。
一方で、研修の成果を実感できない社長もいらっしゃいます。
それは効果が長続きしないからです。
しかし、これはある意味当然のことです。
なぜなら、モチベーションが上がらない原因が明確になっていないからです。
つまり、根本的な原因が解決されない中で研修に参加しても効果は限定的なのです。
では、なぜ人事部をつくると社員のモチベーションがアップするのでしょうか。
人事部をつくるということは、「コミュニケーションの仕組み」をつくることです。
モチベーションが上がらない原因の多くは職場内に存在しています。
人事部をつくれば社員とのコミュニケーションが取れ、その原因を聞き出すことができるようになるのです。
そして原因が分かれば、適切な対処を行うことができます。
この仕組みが人事制度であり、人事制度の構築・運用が人事部の役割なのです。
社員一人ひとりが見えてくる
第1章において、人事部をつくれば社員とのコミュニケーションが仕組みとして構築されるというお話をさせていただきました。コミュニケーションを取ると何が生まれるのでしょうか。
社員のことが見えてくるのです。
社員数が少ないうちは、忙しい社長であっても各社員に目が行き届き、何を考えて仕事をしているのかを把握することはできるかもしれません。
例えば、その社員が順調に技術を習得しているのか、少し壁にぶち当たっているのか等、普段の仕事ぶりから窺い知ることができると思います。
しかし、社員が10人、15人と増えていけばどうでしょうか。
社長には社長の役割がありますので、全てを社長が行うのは現実的に不可能です。
ここで人事部が重要な役割を担うわけです。
コミュニケーションの仕組みを利用すれば、社員が考えていること、悩んでいることが分かり、その情報を蓄積することで「人事データ」が完成するのです。
例えば経理の仕事をイメージしてください。
日々の仕訳により「財務データ」が蓄積され、結果として「財務分析」ができるのです。
人事データも同じことで、このデータにより、「人事分析」を行うことができるわけです。
人事分析とは、すなわち社員一人ひとりの考えていることを可視化することなのです。
社員が辞めなくなる
まずは、下記グラフをご覧下さい。
※出典:エン・ジャパン株式会社、「退職理由のホンネとタテマエ」(2016年2月22日発表)
以前、あなたの会社を退職した方がいらっしゃった場合、その退職理由は何だったでしょうか?
その方が本当の退職理由を言ったかどうかは分かりませんが、多くの場合、本音は話さないものなのです。
つまり、実際には「人間関係」が原因で会社を去っていく方が多いのです。
しかし、人事部があればどうでしょうか。
何度も申し上げますが、人事部は「コミュニケーションの仕組み」をもたらします。
そしてコミュニケーションは社員の本音を引き出すのです。
人間関係のトラブルは上司に問題があるのか、同僚なのか、それが明確になれば、適切な対処を行うことで、社員は辞めなくなるのです。
合わない社員が去っていく
あなたはせっかく採用した社員が、思うような働きをしてくれなかったという経験はないでしょうか?
さらには、その社員の仕事の穴を埋めるべく他の社員にしわ寄せがいってしまっているケースはないでしょうか?
このケースで最悪なのは、穴を埋めてくれている社員が会社を辞め、穴を開けている社員が残るという状況が発生してしまうことですが、人事部がないと、それが現実となる可能性が極めて高くなるのです。
しかし、人事部をつくり、人事制度が運用されることにより人事評価が行われますので、穴を埋めた社員には高い評価が、穴を開けた社員には低い評価がつき、給与や賞与に差が出ることになるのです。
つまり、仕事ができない社員の処遇は悪くなり、徐々に社内における居場所もなくなり、辞めていくことになります。
また、仕事ができない理由として上司の育成方法に問題があるのであれば、コミュニケーションの仕組みにより、上司への指導などを行うことも可能となるのです。
あまり考えたくはありませんが、会社に合わない社員が入社することは避けることが難しいものです。
しかし人事部をつくることで、合わない社員への対応は明確となり、ダメージを最小限に抑えることができるのです。
採用コストが削減できる
今や大企業においてもなかなか人が集まらない時代となってしまいました。
ましてや中小企業における人手不足は社会問題となっています。
従って、社員を採用するためには多くのお金と時間が掛かることになってしまうのです。
しかし、人事部をつくるとその採用コストを削減することができるのです。なぜでしょうか?
第3章で退職理由に関する調査結果をご紹介しましたが、本当の退職理由として一番多かったのは「人間関係」でした。
つまり即戦力となる経験者ほど「次は人間関係の良い会社」を選ぶ傾向にあるのではないでしょうか。
そのような中、あなたの会社の社員が自社のことを、人事部があり人間関係が良い会社だと思っていれば、仕事を探している経験者に自信を持って声を掛けるのではないでしょうか。
結果として、相手から自社を選んでもらえるようになれば、採用コストを大きく削減することが可能になるわけです。
さらに、「リクルート賞与」などの制度を設けて、採用に貢献してくれた社員に感謝の気持ちを示すと、より高い効果が期待できます。
技術の引き継ぎができるようになる
中小企業において、高い技術を持つベテラン社員から、どのようにして技術を若手社員へ引き継いでいくかは大変重要な課題です。
しかし、思うように引き継ぎができないことが悩みの種になっている社長も多いと思います。
その原因は、「引き継ぎ」がベテラン社員の「仕事」になっていないからです。
少数精鋭の中小企業ではベテラン社員の存在は大きく、品質や納期に大きな影響を与えます。
つまり、ベテラン社員の頭の中では「納期・品質を守る>引き継ぎ」という図式ができあがってしまっているのです。
また、人によっては高い技術を自らの既得権益だと認識している場合もあるのではないでしょうか。
このような認識があれば、適切な引き継ぎなど期待できません。
しかし、人事部があり、人事制度が構築されている状況であれば、この「引き継ぎ」が仕事として評価され、賃金や賞与などの処遇にも反映させることができるのです。
納期や品質が重要なのは言うまでもありませんが、技術承継を疎かにする理由にはならないことを人事制度として決めるのです。
会社が成長する
人事部の役割は人事制度を構築・運用していくことです。
さらに根本的なことを言えば、「採用・育成・評価」が人事部の役割、使命と言ってもいいでしょう。
そして、3つの使命を果たすためにはコミュニケーションが最も重要になってくるわけです。
「採用・育成・評価」が適切に実施されるとはどういうことでしょうか?
それは、従来は「ついで仕事」であったことが、「真の仕事」になるということです。
特に中小企業においては、少数精鋭であるがゆえに「ついで仕事」になる傾向がありましたが、人事部ができることで、「真の仕事」として「採用・育成・評価」が実施されるのです。
そして「採用・育成・評価」が適切に実施されれば、何が起こるのでしょうか?
社員の成長です。
社員が成長するということは、紛れもなく会社も成長するということなのです。
まとめ
なぜ、「カネ・モノ・ヒト」とは言わず、「ヒト・モノ・カネ」と言うのでしょうか?
この言葉を最初に言った方の強い思いがあったとともに、その後多くの社長がその思いが正しいと感じ、伝えてきたからではないでしょうか。
人事部をつくることで、そして人事制度を正しく運用することで、必ず会社は成長します。
一日でも早く、その認識を持っていただき、「ヒト・モノ・カネ」の経営を始めませんか?
中小企業の社長に質問です。「ヒト・モノ・カネ」の中で最も重要なものは何か?