中小企業は社長を含めて、上司と部下の距離が近く、「マネジメントができている」と思いがちです。また、管理職の多くが「個人の強化」に重きを置きがちです。
もちろん、個々のビジネススキルの向上は会社の利益に直結するため、新人教育として正しい方針といえます。
問題は「個人の強化」を指導する管理職や現場リーダーの「やり方」や「スキル」にあります。
本記事では、管理職研修にあたり、部下のマネジメントにおける「個人の強化」以外のポイントを解説します。
「個人の強化」に必要なマネジメントスキル
部下の育成には、現場リーダーを含めた管理職の情報収集能力と情報提供能力が必要です。
また、情報収集能力は人事評価にも必要な能力のため、管理職研修では必ずと言っていいほどカリキュラムに含まれます。
情報収集能力
部下を育成するにあたり、部下の強みや弱みのほか、目標を達成する上でのプロセスが正しいか、軌道修正が必要かどうかを判断するためにも管理職には情報収集能力が必要です。
現代のマネージャーはプレイングマネージャーが多く、自分の目標やノルマを達成しながら、部下の育成をおこなうことは至難の業です。
そのため、多くの管理職は中間評価や期末評価において、部下の成果や行動を確認しがちです。
しかし、このようなマネジメントでは人事評価の際に部下からの不信や不満を招いてしまい、チームや職場環境に悪い影響を与えてしまいます。
部下の育成・評価には、”普段から部下の行動”に目を向けて、具体的なアクションを記録に残しておくことが大事です。
つまり、人材育成としての「個人の強化」をおこなうためには、日頃から部下を観察し、良かった行動・悪かった行動を記録しておくことが大切であり、管理職に求められる情報収集能力です。
情報提供能力
昭和や平成の時代では、中小企業では”目で見て学べ”という、いわば、体育会系の教育方針が採用されていました。
確かに正解のないビジネスの世界では、課題や困難に対して自ら解決策を見い出し、成果を出していく個人は必要です。
しかし、すべてがそうだとは限りません。
時には「聞いたほうが早い」「調べたらすぐにわかった」という疑問や課題に対しては、管理職がしっかりと情報を提供し、”支援すること”が大切です。
残念ながら、令和の時代においても昭和時代の教育方針を強いる経営者や管理職がいまだに存在します。
「個人の強化」には、部下が自ら課題を見つけ出し解決するために、マネージャーやリーダーが適切な情報を提供することが必要です。
\1on1面談のやり方が掲載された全13ページの研修資料付/
管理職研修では「部下への支援能力」を身につける
管理職研修では、役割認識やリーダーとしての具体的な行動を学んでいきます。
中でも、部下個人のビジネス能力を高める人材育成能力の中でも重要とされるスキルが「部下への支援能力」です。
多くの管理職が「個人の強化」に必要なマネジメントスキルを指導力と考えています。この指導力を”指示”と勘違いする管理職も少なくありません。
しかし、部下の「個人の強化」に必要なマネジメント能力は、部下ひとり一人の現状や属性に応じて、適切な情報やコミュニケーションを取る「部下への支援能力」です。
この支援能力はフォローアップ能力とも呼ばれています。チームメンバーや部下個人が最大限のパフォーマンスを発揮できるように管理職(上司)が貢献・支援する、近年注目されている管理職スキルのひとつです。
上司の成功体験に基づいた育成方法ではなく、「自分が部下にどのような形で貢献・支援できるか?」を、日々の部下の行動を観察し、見つけ出す必要があります。
また、こうした考え方を身につけるためにも管理職研修で管理職やリーダー(候補も含む)の意識改革をおこなっていく必要があります。
管理職・マネージャーも個人ワークを
管理職やマネージャーは、部下の育成やチームとしての目標達成、自分の個人目標の達成など業務量が多く、自分の管理職としてのマネジメント能力を振り返る機会が少ないといえます。
これは新人教育には投資をするが、管理職育成への投資には消極的だった企業の責任です。
管理職研修では、普段から管理職がマネジメント方法やスキルに問題がないか、自分のマネジメントを振り返る機会にもなります。
また、日頃から自分のマネジメントを振り返る個人ワークも学ぶことで、現場での実践を通しながら、自分のマネジメントを点検できます。
管理職研修は管理職同士のコミュニケーションを取る機会にもつながります。
グループディスカッションを通じた、他の管理職の経験や悩みを共有することで異なる視点からの解決方法や学びを得る機会として利用できます。
個人の強化は”関係性の強化”を重視する
管理職として”成果を出す部下”の育成はマネジメント評価にもつながり、会社への貢献度を高めることができます。
しかし、旧態依然の指導方法による部下の育成は実現しません。
何より2022年4月より中小企業にもパワハラ防止法が施行され、厳しい指導はおろか、育成により部下から「パワハラだ!」と訴えられることを恐れる管理職が増えています。
法改正により必要以上に慎重になっている管理職・マネージャーに対して、「部下を育成しろ!」という会社のほうがおかしいといえます。
こうした背景の中で、部下の「個人の強化」を実現するためには、指導による直接的な「個人の強化」よりも上司と部下の「関係性の強化」が必要です。
上司と部下の「関係性の強化」とは、すなわち、「信頼関係」の構築です。
先述した普段から部下の行動を観察し記録しておくことを前提に、1on1による定期的な面談(「最近どう?」はマネジメントをしていない証拠であり、信頼関係を崩します)や個人目標を作る際の取り決め(上司と部下との間で「何ができたら達成なのか」を取り決める)が上司と部下の「関係性の強化」につながります。
このように具体的な行動に落とし込み、実践するためには管理職の「聞く力」をはじめ、「関係性の強化」につながるマネジメントスキルが必要です。
まとめ
社員ひとり一人の「個人の強化」は会社の売上・利益を高めるためにも必要不可欠な人事戦略です。
しかし、新人教育だけに投資しても「個人の強化」は実現できません。
現場リーダーを含む管理職の育成をしてはじめて、チームメンバーや部下の育成が可能となります。
現代の管理職・マネージャーはパワハラや売上達成の重圧に晒されており、誰に助けを求めたらいいか悩んでいます。
こうした管理職の悩みを解決し、社員の「個人の強化」には、定期的な管理職研修が必ず必要となります。
中小企業にとって、新人教育の前に管理職を育成しなければ、現場の効率化はおろか、職場環境が悪化し、優秀な人材から離れていきます。