中小企業では、今だに「好き嫌い」、「イエスマン」といった基準で社員を評価している社長がいるのが実情です。
これでは社員のモチベーションが上がらないですね。
それでは、どのように社員を評価すれば良いのでしょうか?
人事評価は等級制度から
評価をするためには基準が必要です。
しかし、例えば10人以上いる社員を一律の基準で評価するのには無理があります。
最も効果的なのは、社員をいくつかのグループに分けることです。
社員の格付けと言ってもいいと思います。
等級制度とは
等級制度とは、社員を格付けする制度です。
「人間を格付けする」という表現には何か違和感がある方もいらっしゃると思いますが、人間そのものを格付けするのではなく、あくまで「仕事上において格付けする」という意味でご理解ください。
社員の中には「新米社員」もいれば、「ベテラン社員」もいます。
「営業部員」もいれば、「総務部員」もいます。
さらには、「係長」がいれば、「部長」もいます。
このような様々な社員に対して、会社が「あなたにはこういう働きを求めている」という基準で格付けしていくのが等級制度です。
つまり、会社は等級制度という枠組みの中で社員を評価し、給料を決めていくことになるわけです。
年功序列だけではない
日本の会社では長らく「年功序列制度」が採用されてきました。
5年選手よりも10年選手、10年選手よりも15年選手の方が、仕事がよくでき、給料も高くなることを前提とした制度です。
近年では、やや時代遅れな印象を与えかねない、この年功序列制度ですが、等級制度においては「職能資格制度」と呼ばれています。
職能資格制度とは社員が持つ職務遂行能力を基準にして格付けするという考え方であり、通常、職務遂行能力は職務経験を積めば積むほど、高くなると考えられています。
この制度では、成果ではなく能力を基準にするため、成果を問われることはありません。
結果として、経験年数を重ねると職務遂行能力は上昇する傾向があるので、年功序列的な運用になってしまうのです。
しかし、時代とともに、この年功序列的な等級制度が社員の不平不満の温床になっているケースも多いのが事実です。
そこで、新たな等級制度として登場したのが次の制度です。
- 職務等級制度
- 役割等級制度
職務等級制度とは社員が持つ能力ではなく、実際に行っている仕事、つまり職務を基準にして格付けしていく制度です。
実際に行っている仕事の内容を基準にするわけですから、より明確に公平に格付けできるようになるのです。
昨今は非正規労働者の待遇改善を目指し、「同一労働、同一賃金」を合言葉にして、働き方改革が進められていますが、正に職務等級制度の考え方そのものと言えるでしょう。
しかし、実際の仕事で格付けをする場合には弊害も考えられます。
つまり、仕事と仕事に壁ができてしまい、異なる仕事を担当する人同士での支えあいがなくなってしまうケースです。
特に少数精鋭の中小企業においては、社員が支えあって仕事を行っていることも多いため、この点は慎重に考える必要があります。
また、人材育成を進めていきたい場合にも弊害が起こることが多いので注意が必要です。
もう一つの役割等級制度とは、同じ仕事であっても、その役割、言い換えると期待される行動に着目して社員を格付けしていく制度です。
一例を挙げると、同じ製造という仕事においても、製造担当者と工場長とでは、会社が期待する役割は違ってくると思います。
製造担当者は、決められた手順で正確に納期厳守で製品をつくることが主な役割です。
一方、中小企業では工場長が製造工程に立つこともしばしばですが、それ以上に工場全体のコントロールを期待してるはずです。
納期に支障が出そうであれば、担当者に残業の指示を出さなくてはいけません。
納期が慢性的に遅れているようであれば、増員や設備投資といった進言を社長に行わなければならないのです。
ただ、注意していただきたい点もあります。
役割を果たしたかどうかを評価するには、結果はもちろんですが、その過程も評価してあげなければならないということです。
従って、評価者には相応のスキルが必要になり、特に中小企業においては、このような人事の専門家を配置出来るかどうかがポイントになるでしょう。
等級制度の選び方
等級制度には大きく3種類があるというお話をさせていただきましたが、どの制度が一番良いのでしょうか。
それぞれ一長一短がある制度ですが、何を基準に選ぶのが良いのでしょうか。
それは社長自身の考え方に一番近いものを選ぶことです。
最近、その弊害を指摘されることが多い年功序列の考え方ですが、特に中小企業においては、年功序列がまだ合っていると考えている社長もいらっしゃると思います。
その場合は、職能資格制度を選択すべきなのです。
ただし、社長の考えと社員の考えが一致しているとは限りません。
社員は年功序列ではなく、仕事の内容で評価して欲しいと考えているかもしれません。
この点を踏まえ、社員はどう考えているのかを事前に把握することで、社長、社員がともに納得する等級制度を目指すべきなのです。
何を評価するのか
等級制度が出来上がってはじめて、人事評価制度ができます。
人は誰しも、「評価されない」より「評価されたい」と思うものです。
従って、何を評価するかによって社員の行動が変わってしまい、中には会社にとってマイナスになってしまうことさえあるので、とても重要なのです。
業績の向上に貢献したかどうか(業績考課)
業績向上の視点から社員の行動を評価しようとするものです。
一例を挙げると、次のような項目になるでしょう。
- 期初の売上目標を達成したか
- ミスを発生させていないか
- 納期を守ったか
- 部下を一人前になるまで指導できたか
- 仕事の効率化を実現できたか
売上など、数値で評価できるものは良いのですが、中には人材育成のような数値化が難しいものもあります。
しかし、営業部員などの分かりやすい数値目標を達成している者だけが評価をされるということでは、その他の社員のモチベーションは低下してしまいます。
そこで、数値化できないものは、評価者が見て判断することになるのです。
評価者は常日頃から、社員の行動に目を向けなければなりません。
人事評価においてはこの「評価者」の存在がとても重要になるのです。
能力を持っているかどうか(能力考課)
社員が身につけた能力の視点から評価するものです。
- 業務を遂行するために必要な知識を持つことができたか
- 業務遂行のルールを順守できたか
- 優先順位の決定が適切にできたか
- 正しいタイミングで、正しい決断ができたか
- 他部署との調整が適切にできたか
ここで注意して欲しい点があります。
例えば、等級の高いベテラン社員に対して、「業務遂行のルールを順守できたか」という評価基準では何か違和感がありませんか?
つまり、等級と評価基準は相応の整合性を持たせなければならないということです。
等級の高い人に優しい評価基準では、公平な評価はできません。
社会人としての責任感、協調性を持っているか(情意考課)
新入社員をはじめとした、比較的下位の等級者に対する評価項目です。
- 就業ルールを守ったか
- チームワークを乱すことはなかったか
- 自発的に仕事に取り組んだか
- 最後まで責任を持って仕事をしたか
- 会社の経営理念を理解しているか
いずれの項目も社員の行動を日々観察することでしか評価はできません。
評価者の主観で評価をしてはいけないのです。
どうやって評価するのか
何を評価するか、評価項目が決まれば、次は「どうやって評価するか」です。
結論から申し上げると、各評価項目に対して5段階や4段階などで評価するのが良いでしょう。
学校の通知表とよく似ていますね。
一方、人事評価制度の導入間もない時期には、あまり評価段階を増やしすぎない方が、評価者の負担は減りますので、2段階や3段階の評価も検討すべきだと思います。
いずれの評価段階を取るかは、会社の事情にもよりますが、概ね次のような特徴があります。
\1on1面談のやり方が掲載された全13ページの研修資料付/
5段階評価
3または4に評価が固まる傾向があります。これを中心化傾向と言います。
なお、5段階評価において、「可もなく不可もなく」は3になりますので、覚えておいてください。
4段階評価
5段階評価と違い、可もなく不可もなくの評価ができないため、中心化傾向を抑制できるというメリットがあります。
一方で、中小企業においては重要な普通に働いてくれる社員を適正に評価できないというデメリットがあります。
3段階評価
中小企業では、まず3段階評価からスタートすることが多いと思われます。
ただし、5段階評価と同様、中心化傾向には注意が必要です。
2段階評価
評価者にとっては評価しやすいですが、逆に満点やゼロ点など極端な結果を導きかねない点が特徴です。
評価基準が多ければ、極端な結果を抑制することができるため、検討に値すると思います。
まとめ
教育現場における「いじめ」が社会問題となっていますが、その原因の一つに、人事評価を挙げる専門家がいます。
もちろん、教育現場を預かる教員に対する人事評価です。
つまり、教員に対しては、「いじめを解決した」ことよりも「いじめを発生させない」ことを評価する制度になってしまっていたため、万が一、校内で「いじめ」が発生しても、その事実を隠蔽してしまう傾向があるとのことです。
結果として、「いじめ」に対するアクションが遅れ、不幸な結果を招いてしまうことがあるという見方なのです。
今は改善されている部分もあると思いますが、いかに人事評価が人の行動を左右するのかが分かる事例だと思いませんか?
会社の業績に貢献する人事評価を行いたいものです。
あなたは社員をどのように評価していますか?