中でもコーチングは1on1ミーティングを通じて行う、優れた人材育成手法として注目が高まっています。
今回は優秀な人材を輩出する、効果的なコーチングの手法を中心にご紹介します。
コーチングとは
人事におけるコーチングとは、対話を通じた気づきや新たな視点の提供、考え方・行動選択肢の提案により社員の自己実現や目標達成に必要な自発的行動を促進する人材育成手法です。
主に部下の育成を担当する上司やメンターが行う人材育成方法として取り入れられていますが、「会社の一方的なキャリアパスの提示に終始する」、「ただの面談になっている」などきちんと機能していない現場が見受けられます。
コーチングを機能させるためには、コーチングを提供する管理者やコーチングを受ける部下の意識改革を同時に行なわなければなりません。
コーチングの歴史
コーチングはマネージャーなどの管理職に必要なコミュニケーションスキルとして認識されていますが、コーチングの歴史は古く、1950年代に米ハーバード大学助教授であったマイルズ・ メイスが重要なマネジメントスキルと位置づけたことが始まりといわれています。
その後、1980年代~90年代にかけて、トム・ピーターズ氏やデニス・F・キンロー氏をはじめ多くの識者によってコーチングに関する書籍が多数出版され、2000年代以降は管理職の必須スキルとされています。
ティーチングとの違い
人事分野でコーチングと混同されやすい育成手法にティーチングが挙げられます。
ティーチングとコーチングには「される」人材への関わり方が異なります。
ティーチングとは「される側」に改善点や解決方法を与える(指導する)ことで、理想の状態に近づける育成方法です。
そのため、ティーチングする側の知識や経験を提供し、「される」側の成長や目標達成を促します。
一方で、コーチングは「される側」と対話を通じて、「される側」が持っている特性やスキルを引き出すことを目的にしています。
その結果、「される側」の自己解決能力の向上や目標達成能力を最大限に発揮させ、主体性・自律性を持った人材育成が可能となります。
コーチングの進め方(手法)とは
コーチングは対話を通じた人材育成方法であるため、コーチングだけを目的にした対話の場が必要です。
また、コーチングにおけるコミュニケーションにはいくつかのポイントがあります。
業務時間内での1on1ミーティング
コーチングの対象者は、ひとり一人特性も能力も異なり、抱えている課題や悩みも異なります。
そのため、コーチングは1on1ミーティングが前提となります。
また、ミーティングは必ず業務時間内に行わなければなりません。
業務時間外でのミーティングは当事者意識を希薄化させ、モチベーションの低下や意味のないミーティングとなってしまい、労務管理上においても適切ではありません。
双方向のコミュニケーション
上司・部下との関係性から実施する評価面談や面接は、上司から一方的な意見や改善点の指南に終始しがちです。
コーチングはあくまで「される側」が自ら改善点や問題点を把握し、自分の成長につなげてもらう機会です。
そのため、コーチングを実施する管理職・メンターは一方的に指導をするのではなく、聞き役に徹した上で「される側」が気づきや発見をしやすい情報を提供しなければなりません。
毎週もしくは隔週で継続的に行う
コーチングは評価面談ではなく、人材育成手法であるため、四半期に一度、または半期に一度実施すればよいものではありません。
現場社員が直面するビジネス課題や悩みは日々変化し、目標達成や自己成長へのプロセスも調整する必要があります。
そのため、コーチングでの1on1ミーティングは、毎週1回もしくは隔週1回で行います。
「される側」の育成期間だけでなく、管理職のコーチングスキルはコミュニケーションを通して、継続的に実践していくことで習得できます。
効果的なコーチングを実施するポイントとは
コーチングの導入は、コーチングをやる側の教育・指導だけでなく、コーチングされる側の意識改革も必要です。
人事部主導による管理職へのコーチング
効果的なコーチングによる人材育成は、人事部主動でコーチングを提供する管理職やメンターのコーチングが効果的です。
管理職がコーチングによる効果やメリット(第三者による気づきや納得のいくアプローチ手法)を実感するには、座学だけでは足りません。
そのため、人材育成計画に則って、人事部が管理職をコーチングしていくことが必要です。
優れたコーチングスキルは、コーチングを受ける立場で効果を体感することにより習得できます。
そのため、人事部もコーチングを通じて、対象となる管理職からのフィードバック(コーチングに対する理解度や必要性、改善点など)を基に、導入するコーチング内容の精度を高めていかなければなりません。
コーチングされる側の意識改革
コーチングは実施する管理職だけが理解しておけば良いというわけではありません。
コーチングを「される」側もコーチングに対する理解が必要です。
コーチングは1on1ミーティングでの気づきや客観的かつ様々な角度からの視点により、成長に必要なプロセスを発見できるアプローチでもあります。
そのため、コーチングを「される」側もミーティングを通じて、「何」を発見でき、成長に繋げられるかを意識しておく必要があります。
コーチングを目的とした1on1ミーティングであることや、「される」側が考える課題や悩みの整理を行ってもらうなど、事前にコーチングを理解する体制を構築しなければなりません。
コーチングに必要なスキル
コーチングを実施するには「ペーシングスキル」、「信頼関係の構築力」そして「行動特性の分類力」をコーチングを「する側」に習得させなければなりません。
ペーシングスキル
ペーシングスキルとは、相手に話しやすい印象を与え、相手の意見や思いを引き出しやすくするスキルです。
コーチングは「される側」が主体的に課題や悩みを認識し、自ら解決策や解決のための行動を気づかせる手法であるため、コーチングを行う管理職・メンターは発言しやすい場の雰囲気を作り出すスキルが必要です。
信頼関係の構築力
傾聴力や質問力といったコミュニケーションスキルを持っていたとしても、管理職(上司)と部下との間に信頼関係がなければ、コーチングは機能しません。
信頼関係の構築は普段からの社内コミュニケーションが必要ですが、「飲みの席でのコミュニケーション」は時代錯誤であり、プライベートを優先したい若い社会人にとっては迷惑行為となります。
世代間の価値観が異なる以上、管理職研修を定期的に行い、信頼関係の構築方法を管理職自身に学んでもらわなければなりません。
行動特性の分析力
コーチングの対象となる現場社員は、それぞれ能力も役割、考え方、性格も異なります。
そのため、管理職・メンターは「される側」の人材をしっかりと観察・分析し、行動特性を見極める必要があります。
行動特性分析理論のひとつである「DiSC理論」を用いて人材を「主導型」、「感化型」、「慎重型」、「安定型」の4つの特性に分け、以下のようなアプローチが効果的です。
主導型へのアプローチ
自分のやり方で目標達成を行うタイプであり、行動力もあり、高い目標を好む傾向があります。
そのため、コーチングでは「される側」が「自分で選択肢を決定している」という実感を呼び出すために、解決のための行動を一任する方向で解決策を導くコーチングが有効です。
感化型へのアプローチ
社交的であり、人との交流を好むため、周囲の人間や仕事に対する厳しさが欠けている傾向が見受けられます。
そのため、コーチングでは「褒める」姿勢で1on1ミーティングを実施し、管理職・メンターと一緒に課題や解決策を見つけ出し、取り組んでいく方向で気付きを与えると効果的です。
慎重型へのアプローチ
データや数値といった客観的な事実や論理的な納得感を好むため、コーチングでは粘り強く、「なぜその解決策が必要か」を一緒に考え、本人の中で論理的納得感を生み出す必要があります。
安定型へのアプローチ
既にある解決方法や定型的な方法を好み、変化を嫌う傾向があるため、目標達成への解決策を具体化し、やることを明確にするようなコーチングが効果的です。
適応能力もその他のタイプと比べて遅い傾向があるため、はじめから主体性を求めるのではなく、段階的に実践に移せるように促します。
コーチングは社員の意識改革が重要
優れた人事制度や高度なITシステムを導入する際は、社員同士のコミュニケーションが不足し、機能不全を起こしてしまいがちです。
また、人事制度や人材育成の手法を活用するのは現場社員となります。
そのため、「する側」も「される側」も制度や育成方法の内容を理解し、実践を繰り返すことが求められます。
まとめ
コーチングは1980年代から注目されているマネジメントスキルですが、優れた目標手法や人事制度、コミュニケーションツールが登場しているからこそ、社員同士の密なコミュニケーションが必要です。
コーチングも人材育成手法のひとつであり、コーチングを「する側」と「される側」、ともに意識改革が不可欠です。
まずは人事部が主導し、管理職・メンターをコーチングすることからはじめましょう。
役割等級制度やOKRなど画期的な人事制度や目標管理手法を機能させるためには、現場での密なコミュニケーションが欠かせません。