長時間労働や労災の直接的な原因にもなっており、近年、社会問題化している課題です。
今回は効果的なパワハラ対策のために、パワハラの定義や類型、具体的な対策方法から人事視点でのパワハラ対策を解説します。
パワハラ(パワーハラスメント)とは
パワハラ(パワーハラスメント)とは、「職務上の優位性」を乱用し、「業務の適用範囲」を超えて、従業員に精神的・肉体的苦痛を与える、または職場環境を著しく悪化させる行為全般を指します。
パワハラは、以下2つの視点から定義されています。
- 職場での優位性
- 業務の適正範囲
職場での優位性とは「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識・業務上の経験といった面での優位性を指します。
業務の適正範囲とは「業務上の指揮監督」および「教育指導」を目的にした上司の役割を遂行する上での行為の範囲です。
そのため、業務上の適正範囲内の行為とみなされれば、パワハラには該当しません。
一般的に、パワハラは上司から部下へと行われる行為とされていますが、先輩・後輩間や同僚同士、部下から上司へとさまざまな関係性の中で発生します。
若年労働者の使い捨てや長時間労働の強要、精神疾患などの労災の直接的な原因として、近年、重要な社会問題としても認識されています。
パワハラの定義と6つの類型
パワハラは、職場での優位性と業務の適正範囲という基準で認定されます。
しかし、解釈の仕方や個人の受け止め方によって、判断が難しいこともパワハラの特徴です。
そのため、パワハラと判断するためには、パワハラと疑われる行為を6つの類型に該当するかどうかで見極めることができます。
類型 | 行為内容 |
身体的な攻撃 | 直接的・間接的に叩く、殴る、蹴るなどの暴力行為 |
精神的な攻撃 | 同僚の目の前での叱責(Ccに同僚を加えたメールやチャットでの叱責も含む)や必要以上の長時間・執拗な叱責 |
人間関係からの切り離し | ひとりだけ別室への移動や自宅待機の強制、歓送迎会など社内イベント・会議からの排除 |
過大な要求 | 他人の仕事の押しつけや業務遂行能力を超える業務依頼 |
過小な要求 | スキル・能力にそぐわない業務だけを一方的に要求する行為(営業職での採用にもかかわらず、トイレ清掃やコピー取り、シュレッダー担当を押し付けるなど) |
個の侵害 | プライベートへの執拗な干渉や身内への悪口などの行為 |
上記の行為はパワハラに該当するため、企業は行為者に対して厳正な処置を行う必要があります。
パワハラの対策方法
パワハラを防ぐためには、厚生労働省が推奨する7つの基本指針に従い、具体的な対策を打ち出すと効果的です。
【参考】厚生労働省 あかるい職場応援団 ハラスメント関係資料ダウンロード パワハラ対策導入マニュアル等
トップのメッセージを発信
パワハラ対策は企業トップ自らが全従業員に向けて、「パワハラは会社の重要な人的経営課題である」というメッセージを伝えなければなりません。
パワハラ防止を経営課題として位置づける理由をアナウンスすることで、全従業員が自分事として認識することができます。
ルールの決定
パワハラ対策には労使が一体となって取り組むことが大切です。
また、適用条件や処分内容を明確にし、労使協定や労働協約、罰則規定に盛り込み、会社のルールとして適用することが効果的です。
ルールには、どのような行為がパワハラに該当するか、従業員にわかりやすく周知するために具体的な内容を記載しましょう。
また、ルールの策定・変更の際は、事前に労働者組合または労働者の代表と意見交換を行い、就業規則を変更した場合は従業員への説明会や文書の配布を行います(就業規則の変更は従業員への説明義務が発生します)。
社内アンケートによる実態の把握
パワハラ防止策を有効にするためにも社内アンケートを通じて、パワハラの実態を把握する必要があります。
アンケートの実施は対象者に偏ることなく、全従業員を対象に行いましょう。
また、社内アンケート以外にも、安全管理者・産業医によるヒアリングや評価面接・個人面談に自己申告項目を設ける方法もあります。
研修を通じた社員教育
パワハラの防止には、管理職・非管理職にかかわらず、すべての従業員を対象に、定期的な社員教育を実施します。
また、研修は管理監督者向け・一般従業員向けに分け、それぞれの対象者に合った内容を実施しましょう。
研修の実施方法は、社会保険労務士が講師を務める研修や相談窓口での説明、eラーニングの活用が挙げられます。
パワハラ防止用の研修資料は『厚生労働省 あかるい職場応援団』からダウンロードが可能です。
【参考】厚生労働省 あかるい職場応援団 ダウンロードコーナー
社内へのパワハラに関する周知・啓蒙
パワハラに対する企業の方針やルール、相談窓口の設置が決定した後は、積極的に周知・啓蒙を行います。
周知を徹底させるためには、ポスターでの周知だけでなく、各種の取組結果をデータで示し、社内イントラや全体会議で提示することが効果的です。
また、企業のトップや人事部門、事業部長自らが取り組み内容を発表することで、従業員に企業の本気度が伝わります。
相談窓口・解決の場の提供
パワハラ防止策を実施しつつも、万が一パワハラが発生してしまった場合に備えて、相談窓口・解決の場を設置することも必要です。
相談窓口は人事労務担当部門やコンプライアンス担当、産業医・社内カウンセラーなど従業員が相談しやすい部門に設置しましょう。
また、弁護士や社労士事務所、コンサルティング会社など外部機関を外部の相談窓口として活用する方法もあります。
パワハラが相談窓口に寄せられた時点で、相談窓口を担う部門が事実関係を確認し、行為者・相談者への取るべき措置を検討し、適切なフォローを行います。
その後、再発防止策の検討を行いましょう。
再発防止策の策定
再発防止のためには、パワハラ防止策を継続的に行うことが効果的です。
再発防止策を策定するには、解決後に職場環境が改善されたかどうか、パワハラ行為者が同様の問題を起こさないかどうかを考えなければなりません。
現在、行っている取り組みや防止策を定期的に検証・見直しを行い、新たな対策が必要かどうか検討します。
再発防止策には、行為者に対する再発防止研修の実施、事例の活用、管理職登用の条件として追加、職場内のコミュニケーション強化や長時間労働対策など、幅広い対策が考えられます。
人事視点でのパワハラ対策とは
パワハラの対策には企業のトップだけでなく、労務管理や人事制度の策定を行う人事部門の役割が重要です。
次に、人事視点でのパワハラ対策をご紹介します。
中小企業は人事部門の設置を
規模の小さい中小企業は人事の役割を総務部が担っていることが多く、人的経営課題の解決が困難な場合が見受けられます。
人事部門の設置は、従業員がパワハラを相談しやすい窓口・解決の場として機能し、中立の立場でパワハラ対策を実施できます。
パワハラはコミュニケーション不足が要因で起こるといわれています。
コミュニケーションを成立させるためには、「業務時間内に行うこと」と「秘密を厳守すること」が欠かせません。
また、パワハラ対策には告発による被害者への不利益な行為から守ることも含まれます。
業務時間内に会社全体でパワハラ対策に取り組み、秘密厳守を前提にパワハラを解決するためには、会社と現場との間に立つ人事部門が必須となります。
人事部によるメンタルヘルス管理
従業員の退職理由で最も大きな理由が「職場の人間関係」です。
しかし、職場の人間関係が悪くても退職に踏み切らない従業員も多数存在します。
このような従業員は、高確率でメンタルヘルス不調を発症します。
従業員へのストレスチェックは企業の義務となっており、人事部門が従業員のメンタルヘルスを管理することで、パワハラを含む顕在しにくい現場の実態を浮き彫りにできます。
従業員意識調査の実施
従業員意識調査は、人的経営課題を浮き彫りにする効果があり、顕在しにくい現場の実態の把握に便利です。
パワハラ対策には、社内アンケートによる実態把握が必要であり、人事部が主導となって、全従業員を対象とした従業員意識調査はパワハラの実態を突き止めることにもつながります。
まとめ
パワハラは優秀な人材の流出や職場環境の悪化につながり、組織全体の生産性・企業イメージ低下につながる重要な人的経営課題です。
従業員保護の観点からもパワハラ対策は企業が取り組むべき課題であり、人事部門を中心とした対策が欠かせません。
中小企業ほど人事部の役割を重視し、パワハラへの対策を本格的に導入しましょう。
パワハラ(パワーハラスメント)とは、同じ職場で働く従業員に対して、職場上の優位性を利用し、業務の適正範囲を超えた精神的・肉体的苦痛を与える行為全般を指します。