しかし、多くの企業では新入社員への教育には投資を行いますが、管理職への教育には積極的な投資を行っていません。
優秀な人材を輩出・定着させるためには、管理職スキルを有する上司の存在が鍵となります。
今回は上司と部下が信頼関係を構築し、部下の能力向上ために不可欠な管理職が身につけるべき技術と部下のタイプ別育成法を併せて解説します。
人材育成における管理職が意識するべきポイント
部下が最高のパフォーマンスを発揮し、高い実績を出すために職場環境を改善することは管理職の重要な職務です。
しかし、単純に部下別に育成方法を変えている場合、他の従業員は「ひいきしている」と思い、公平な人事考課がされているか不安になってしまいます。
特定の部下に上司の主観で育成することも間違いですが、部下を一括りにして育成することも上司の主観から生まれる誤った方法です。
管理職にリーダーシップは必要ない
管理職は強いリーダーシップを持つべきという精神論が世の中の主流となっています。
正解でもありますが、必ずしもリーダーシップを有する必要はありません。
上司の管理職スキルで最も必要なのは、上司と部下との間に信頼関係を構築することです。
また、信頼関係の構築は圧倒的なリーダーシップやカリスマ性の特権ではなく、「聞き出し、共有して、改善する」というごく当たり前のことを行うだけで、人材育成や人事考課などの職場の課題は改善できます。
まずは管理職の中でもすぐに実践できる“聞き出す”技術から身につけましょう。
タイプ別育成の必要性を理解する
部下の育成は子どもの性格や能力、そのときの状況を踏まえて教育に応用されるレディネスが効果的です。
心理学用語のひとつで、学習を行う際に必要な環境や条件がそろっている状態を指します。
子どもに学習指導を行う場合、「知識の習得状況」や「発達水準」に合わせて教育方法を変えていきます。
ビジネスでレディネスを応用するためには、以下のように整理し、人材育成に反映させていきます。
知識の習得状況 → 仕事の能力
発達水準 → 仕事の意欲
レディネスを応用することで、部下を4つのタイプに分けて、必要な人材育成を実現できます。
4つのタイプ別育成方法
レディネスの考え方を応用した部下のタイプ別育成方法は4つのタイプに整理でき、以下のように部下をタイプ分けしていきます。
仕事が「できる」 | 仕事が「できない」 | |
仕事を率先して「やる」 | ①仕事ができる+率先してやる | ③仕事ができない+率先してやる |
仕事を率先して「やらない」 | ②仕事ができる+率先してやらない | ④仕事ができない+率先してやらない |
①仕事ができる+率先してやる部下への育成方法
仕事に対して常に前向きで、自分の能力を最大限に発揮して効率よく仕事を行ってくれます。
自発的に業務を遂行し、適切なタイミングで進捗状況を報連相し、周囲に対しても協力的かつ情報やアイデア、知識などの共有も積極的に行ってくれます。
- 業務を委任し、上司はサポートに回ることを心がける
- 自発的なチャレンジを促し、成果をあげたときは一緒に喜び賞賛する
- 上司は論理的な思考をもって育成を行う必要があります。
適当で根拠のない返答をしていると信頼を失い、立場が逆転することもあります。
②仕事ができる+率先してやらない部下への育成方法
仕事の能力は高いが、組織へのエンゲージメントやモチベーションが低い特徴があります。
自主的な業務遂行を苦手とし、基本的に業務命令により業務を遂行しているため、モチベーションを喚起することが難しいといえます。
また、自分の能力に懐疑的なため、周囲の人間に支援や励まし、慰労を求めやすい人材でもあります。
一方で、業務遂行能力(処理能力)が高く、組織エンゲージメントやモチベーションが向上した場合、高い実績・成果を達成します。
- 仕事に対するモチベーションを向上させ、その気持ちを維持させる
- 実績や成果を正当に評価し、具体的に褒める
- 仕事への不安や不満、問題を聞き出し、時間をかけて整理をする
不安や不満、問題点を抱えている、モチベーションが低下している時は時間制限がない1on1ミーティングが効果的です。
③仕事ができない+率先してやる部下への育成方法
モチベーションがとても高い一方で、実務能力が低い傾向があります。主に新卒入社の社員に多く、勤続年数が長いにも関わらず、業務を効率よく遂行できない人材も見受けられます。
誰よりも積極的に業務を引き受け、新しい情報に興味を示す一方で、重要な局面で失敗してしまう可能性がある人材です。
- 本人の理解度を深めるために本質的な質疑応答を繰り返す
- マルチタスクが苦手なため、業務範囲を明確にしてあげる
- 敢えて時間をかけて育成し、サポート体制を充実させる
④仕事ができない+率先してやらない部下への育成方法
組織へのエンゲージメントやモチベーションもなく、業務遂行能力も低いため、責任感がありません。そのため、上司からの指示された業務しかできません。
また、不平不満や言い訳も多く、自分の労働者権利を優先させる傾向がみられます。
自分の業務遂行能力を理解・把握しているため、自己防衛心が優先され、仕事を覚えることよりも失敗しないことや責任を逃れることに重点を置きがちです。
- 具体的に指導し、細かい指示を出す
- 負荷をかけず、複数の指示を出さないようにする
- 面談の機会を設けて、コミュニケーションを欠かさない
- まず話を聞くことを優先する
- 話を聞いた上で解決策を自分の考えで出させる
管理職が行うべき育成のポイント
部下の育成で注目されている1on1ミーティングは、上司の管理職スキルがあって、はじめて効果があります。仕事ができる上司に限って、部下が話している途中で、話を遮り、一方に話を始めます。
部下をうまく育成するためには、管理職が身につけるべき“聞き出す”技術に加え、普段から部下の働きぶりを記録しておかなければなりません。
具体的な事実を基に指導や育成を行う
部下を評価する際、KPIなど数値を基準とした客観的な評価と普段の具体的な働きぶりを伝えなければなりません。
「君の集めたデータが顧客視点で役に立った」など具体的な事実を伝えて褒めることが重要です。
面談に時間の制限を設けない
管理職は自分の営業成績の達成のほか、部下のマネジメントなど業務量が多くなりがちです。そのため、1on1ミーティングや面談では1時間以内など時間に制限する上司も少なくありません。
しかし、部下が抱える悩みや不安、問題をたった1時間で聞き出すことはほぼ不可能です。敢えて時間の制限を設けず、じっくりと部下の話を聞くことが職場の改善につながる最善策といえます。
面談に時間制限があるからという理由で課題や問題を先送りにすると、後々大きな問題となってしまい、結局多大な労力と時間が必要になってしまいます。
沈黙して聞き役に徹する
業務中のミスがたとえ部下の責任で発生したとしても、上司は必ず部下の言い分や意見に黙って、耳を傾けなければなりません。
黙って話を聞くことが業務ミスの根本原因の発見につながりやすく、何より部下の不安を払拭し、安心感を与えることができます。
特にミスを犯した部下は潜在的に自己防衛に走ってしまいがちです。頭ごなしに部下の考えや意見を否定する行為は上司と部下の信頼関係を棄損してしまいます。
フィードバック時の会社批判は避ける
部下の不満を回避するために、フィードバックの場で会社の批判は避けてください。
現在、上司の立場は弱く、部下に忖度する管理職が増えています。
そのため、フィードバック時に部下の不満の矢面になりたくない思いから会社批判を行う管理職が一定数存在します。
上司としてフォローしているつもりでも、部下は評価が低く、なぜ指導されているかの理由がわからないことに不満を持ちがちです。
部署の業績や会社の方針などフィードバック時に「仕方ない」と片付けられやすい説明は部下に不信感を植えつけてしまいます。
部下が意見や考えを言える場づくり
部下が安心して意見を言えない場は「無駄なコミュニケーションの場」です。
部下が自分の意見や考えを言えない機会は単なる報告会か上司の一方的な独壇場以外何でもありません。
そのため、管理職は部下の状況や面談内容によって、最適な場を選ぶ必要があります。機密事項を取り扱わなければ、コーヒーチェーン店やホテルのラウンジでも問題ありません。
上司と部下のコミュニケーションの目的は部下の“本当の”考えや意見、そして“本当の”問題を洗い出すことです。
部下が話しやすい雰囲気を作るために、面談やコミュニケーションの場を臨機応変に変えることも管理職が取るべき工夫のひとつでもあります。
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部下の教育には、管理職と部下・チームメンバーとの間に信頼関係を構築することが不可欠です。
しかし、前述の通り、現在の管理職は管理職としてのスキルアップを十分にされないまま、管理職に昇進していった方が多いといえます。
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部下との信頼関係の構築方法や部下とのコミュニケーション方法に不安な方はぜひ参考にしてみてください。
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【管理職必見】部下のタイプ別育成方法:まとめ
現場のすべてを押し付けられ、管理職スキルの習得に十分に投資してもらえなかった現在の管理職は、現在では“ハズレくじ”とまで揶揄されています。
しかし、会社が長期的に成長していくための人材育成には、管理職の存在なくしては実現が不可能です。
管理職本人による管理職スキルの向上はもちろん、経営者として会社として管理職の育成に積極的に関わっていく必要があります。
企業を中長期的に成長させるためには、人材育成が不可欠です。