また、日本の労働生産性は先進国の中でも実質、名目ともに最も低い水準で推移しています。
今回は、残業時間削減の対策や残業時間が増える原因・理由、課題から成功事例までご紹介いたします。
残業時間が増える原因・課題
残業時間削減を妨げる原因は、社会的背景の他、企業や従業員の意識が大きく関わっています。
給与制度による問題
現在、日本企業には労働基準法の規定範囲内でさまざまな給与体系が導入されています。
従来、時間外労働時間も給与が支払われていましたが、成果・業績を重視した固定残業制や、みなし労働時間制を導入する企業も増えています。
成果主義は社員間の不公平感を是正しますが、長時間労働の原因と考えられています。
また、労働基準法で規定されている「管理監督者」は残業代の対象から外せるため、「名ばかり管理職」の増加による残業時間の増加につながっているとも指摘されています。
2019年4月からは「高度プロフェッショナル制度」が導入され、年収1075万円以上の対象労働者(その他にも条件や義務あり)は労働基準法の適用外となり、残業手当・深夜手当が適用されなくなります。
柔軟な働き方を推進する一方で、過労死や残業時間の増加の原因となるとも懸念されています。
従業員の意識による問題
未だに年功序列や終身雇用といった慣習を受け継ぐ日本企業も多く、成果・業績よりもプロセスや姿勢を重視する風潮が強いといえます。
そのため、従業員も「効率的に成果・業績を上げよう」という思考が働きづらく、残業代で生活費を稼ごうとする従業員も多く存在します。
将来の不確実性が高まり、給与が上がりづらい状況もこうした従業員の働き方に大きく影響していると考えられます。
業務量や企業文化による問題
経済がグローバル化するにあたり、業務内容の高度化・複雑化が進んでいます。
また、深刻な人手不足も相まって、従業員一人あたりの業務量も増加しています。
しかし、従来の非効率な仕組みでは業務を進めている企業も多く、業務プロセスの改善や見直しが進みにくい状況も珍しくありません。
また、「残業することが美徳」とする古き価値観が職場全体に蔓延しており、残業しないことを良しとしない企業文化も残業時間削減を妨げる原因となっています。
残業時間削減のための対策とは
2019年4月から『働き方改革法』が順次施行され、大企業を対象に「残業時間は原則として月45時間、年360時間」と労働時間に上限規制が導入されます。
そのため、残業時間削減にもつながりやすく、従業員の生産性向上や健康管理、ワークライフバランスの実現が期待されています。
今回は残業時間の上限規制とも相性が良い効果的な対策をご紹介いたします。
ノー残業デーの制定
ノー残業デーとは、企業が決めた曜日に従業員を一斉に退社させる残業時間削減施策のひとつです。
企業が従業員に強制的に退社させることで、残業手当の削減と従業員の(業務効率化に対する)意識改革にもつながります。
また、残業減少によるストレス緩和やモチベーション向上にも効果的です。
しかし、業務プロセスの改善・見直しを同時に行わなければ、その他の曜日に業務が偏り、結果的に残業時間削減につながらない恐れもあります。
残業時間と連動した人事考課の導入
実労働時間を基準とした給与計算では、短期間で成果・業績を上げた人材よりも非効率な働き方をしている人材の給与が高くなってしまい、社員間に不公平感が広がってしまいます。
近年では、成果・業績の結果とともに残業時間の有無も人事考課の評価項目に導入する企業も増えています。
残業時間と人事考課の連動は従業員の生産性向上を促し、残業時間の抑制にも効果的です。
また、業務遂行能力の評価にもつながり、社員間の不公平感の是正にもつながります。
事前申請制度の導入
事前申請制度とは、従業員が残業をする場合、管理職に事前申請し、承認を得なければならない制度です。
管理職が組織目標と連動した生産計画と照らし合わした上で、残業の承認・却下を判断でき、チームメンバー一人ひとりの業務負荷や業務量の管理・把握にもつながります。
また、残業の事前申請制度は業務プロセスの改善・見直しもしやすく、社員の業務効率化にも効果的です。
業務ローテーション(多能工化)による標準化
業務ローテーションとは、従業員ひとりへの業務集中を防ぐために、従業員全員がさまざまな業務を担う働き方です。
社員同士のサポートや協力を促し、業務の属人化防止にもつながるため、一人あたりの残業時間抑制も期待できます。
業務ローテーションは社員同士のコミュニケーションの促進やチームワークの向上、組織全体の業務効率化にも効果的です。
顧客と連携した業務改善・見直し
業界や職種、業務内容によっては、自社努力のみでの業務改善・見直しが難しい企業も少なくありません。
また、顧客の急な要望への対応は社員の残業にもつながりやすい反面、競争が激化する経済状況下では多少の無理な要望にも応えようとする企業が増えています。
書類の電子化によるペーパーレスや、チャットツール・テレビ会議を使って顧客とのコミュニケーションを改善することで、自社と顧客双方にとっての残業時間削減やコスト削減につながります。
また、顧客との信頼関係を前提にした「営業時間外の要望・対応を制限する」、「計画的な発注・受注を心がける」などの、顧客と連携した業務改善・見直しも残業時間削減に効果的です。
業務効率化ツールや勤怠管理システムの導入
残業時間削減の課題として「業務プロセスの改善・見直し」を考える経営者も多く、従業員の労働生産性向上や勤務管理への対策が求められています。
近年では、営業事務をサポートするSFA(営業支援システム)やクラウドシステムを活用した業務効率化ツールの導入が残業時間削減につながると認識されています。
その他にも従業員の勤務時間を把握・管理する勤怠管理システムは、長時間労働や不必要な残業時間の抑制が期待できます。
残業時間削減の弊害に注意
残業時間削減はトップダウンによる制度の導入や業務改善施策の実施は効果的ですが、残業削減による弊害も考慮しなければいけません。
残業時間削減で注意したい弊害は以下となります。
- 余った業務の持ち帰り
- 休憩時間・休暇の消滅
- 社内コミュニケーションの減少
- 人材育成・マネジメント業務の放棄
- 有給休暇の消化率低下
- 勤労意欲の低下
- サービス残業の強要
業務プロセスの改善・見直しがないままの残業時間の削減は、上記の弊害を引き起こしやすく、労働基準法にも抵触する恐れがあります。
残業時間削減の成功事例
残業時間削減は企業の業績や従業員の働き方、業務プロセスの見直しなど総合的な対策が必要です。
そうした試行錯誤の取り組みを強化し、残業時間削減に成功した企業も増えています。
今回は残業時間削減に成功した企業事例をご紹介いたします。
カルビー株式会社の「早く帰るデー」による残業時間削減
日本の大手菓子メーカーであるカルビー株式会社(以下、カルビー)では、2013年12月より毎週水曜日を「早く帰るデー」と定め、従業員のワークライフバランス実現に努めています。
また、夏季を「サマータイム」、冬季を「アーリータイム」と定義し、早朝時間を利用した働き方を推奨することで、効率化・残業時間の抑制につながっています。
カルビーでは徹底した成果主義も導入しており、実労働時間ではなく、成果・業績を重視した人事考課を浸透させ、残業時間削減を実現しています。
伊藤忠商事の朝型勤務による残業時間削減
総合商社大手の伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)では、朝型勤務を導入し、2020年までに年間平均残業時間を朝型勤務導入前比10%以上削減する目標を掲げています。
朝型勤務では朝食の無料配布し、社員の健康に配慮しつつ、社員の意識改革や業務効率化、残業時間削減を促進しています。
伊藤忠商事では、定期的なモニタリングを実施し、社員の勤務状況の適正化にも努めています。
SCSK株式会社のスマートワーク・チャレンジによる残業時間削減
住友商事グループのシステムインテグレーターであるSCSK株式会社(以下、SCSK)では、「働きやすい、やりがいのある会社」の実現に向けて、スマートワーク・チャレンジを導入しています。
スマートワーク・チャレンジとは、各部署が主体となって、業務効率化を進めると同時に削減した残業代を全額社員に還元する取り組みです。
残業削減・休暇取得の目標を達成すると、達成インセンティブも支給しており、その他にも毎月20時間の固定残業手当とコアタイム廃止・フレキシブル時間の拡大などの残業時間削減施策を多数実施しています。
まとめ
- 残業時間の増加は、日本企業の給与制度や従業員の意識、業務量や企業文化による問題が原因になりやすい。
- 残業時間削減の対策には「ノー残業デーの制定」や「残業時間と連動した人事考課の導入」、「事前申請制度の導入」、「業務ローテーション(多能工化)による標準化」、「顧客と連携した業務改善・見直し」、「業務効率化ツールや勤怠管理システムの導入」などが効果的である。
- 残業時間削減では、業務の持ち帰りやサービス残業の強要、社内コミュニケーションの低下などの弊害も考慮し、業務プロセスの改善・見直しを同時に推進しなければいけない。
深刻な人手不足と経営の不確実性が拡大する中、長時間労働やサービス残業が社会問題化しています。