今回は、人事部の仕事内容や役割、人事部担当者に求められる能力から今後求められる業務内容までご紹介いたします。
人事部の仕事内容
人事部の仕事は「採用活動」、「人事制度(評価制度)の立案・策定」、「労務管理」、「人材育成」、「評価・処遇の決定」の5つに分けられます。
採用活動
退職や人事異動による人員補充や次世代を担う若手社員の獲得といった採用活動は、人事部の重要な仕事であり、人事部のイメージでもあります。
大学卒業予定者(新卒採用)や即戦力人材(中途採用)の採用活動は、経営計画に基づいて、一年を通して行われます。
近年では従来の新卒一括採用や転職サイトを通じた中途採用だけでなく、第二新卒採用やリファラル採用(社員の推薦・紹介を通した採用活動)、外国人採用など活動の幅が広がっており、柔軟で効率的な採用活動が行われています。
人事制度(評価制度)の立案・策定
従業員エンゲージメントやモチベーションを高める人事制度(評価制度)の立案・策定は組織の活性化や社員個人の成長につながる指針となります。
経営理念や社風、社員構成(女性社員比率など)に適した人事・評価制度を導入し、継続的に数値に基づいた評価と運用を行っていかなければいけません。
また、価値観の多様化や女性の社会進出に伴い、社員のライフステージに合った人事制度(テレワークや時短勤務など)の導入も検討する機会が増えています。
労務管理
社員の勤怠管理・健康管理は、組織・個人の良好な関係性を維持するための重要な仕事です。
「社員の健康管理」を経営課題として重視する「健康経営」が注目を集めており、クラウドサービスやパルスサーベイ(短期的なアンケートを実施して、ほぼリアルタイムの社員の感情や健康状態を測る調査方法)を使った、労務管理も広がっています。
また、労務管理はさまざまな人事関連の事務作業(労働条件の確認や社員個別の対応など)を担います。
効率化しやすい分野であり、労務管理の業務効率化を通して、人材育成や採用活動に集中する企業も増えています。
人材育成
「人材育成」は重要な経営課題のひとつであり、等級毎の社員教育(新入社員・管理職・OJTなど)やキャリアパスの明示、コンプライアンス研修、ハラスメント・労務管理研修など人材育成に関わるプログラムは多岐に渡ります。
また、社員個人の尊重が重視されており、マネジメント・スタイルも変化しています。
そのため、人事部が経営幹部と現場社員とのやりとりを通して、積極的に人材育成に関わる機会も増えています。
自立型組織人の育成やタレントマネジメントといった新たな人材育成の導入は人事部の大きな課題として取り組まれています。
評価・処遇(昇進や給与)の決定
社員の評価・処遇は、評価対象社員の直属上司・同僚の評価と企業が求める業績、そして社員が設定した目標の達成度(結果)を踏まえて、決定します。
また、日本企業の多くが相対評価(レーティング評価)を採用しており、最終的な評価や処遇の決定は人事部が担当しています。
しかし、社員個人能力を活かすための絶対評価(ノーレイティング評価)を導入する企業も増えており、人事部の評価・処遇における役割も薄くなっています。
今後は管理職を含む現場の社員に評価・処遇決定の権限を移行し、組織・個人活性化につながる人事評価が必要です。
人事部に求められる役割
現代の人事部には、管理業務に従事するのではなく、経営戦略と密接に結びついた役割が求められています。
今回は米ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授(以下、ウルリッチ氏)が提唱した、人事部の4つの役割をご紹介いたします。
ウルリッチ氏は、企業の組織・人事戦略を担う人事部の役割を以下の4つに分類し、それぞれ「経営戦略と日常業務」、「人材とプロセスの管理」というベクトルに応じた役割を定義しています。
- 戦略パートナー…組織の戦略パートナーとして、人事戦略の構築を担う役割
- 管理のエキスパート…雇用主・被雇用者双方の全方位的な管理を担う役割
- 従業員のチャンピオン…社員とのコミュニケーションを通して、社員のモチベーション向上と方向性の明示を担う役割
- 変革のエージェント…経営理念の実現を目指した人材活用の実施を担う役割
人事部担当者は業務内容に応じて、4つの役割を使いこなし、組織と個人の成長につなげる重要な部門でもあります。
【参考】MBAの人材戦略
人事部に求められる能力
採用活動や人事制度の立案・策定、人材育成と幅広い仕事を抱える人事部門には、マルチタスクをこなせる人事部担当者が不可欠です。
コミュニケーション能力
人材育成や採用活動は経営計画と連携して行われるため、経営幹部や現場の管理職とやりとりする機会も多く、幅広い年齢層と意思疎通ができるコミュニケーションが求められます。
また、採用活動では応募者の適正や姿勢を評価するために、質問の仕方や会話の流れを工夫する高度なコミュニケーション能力が必要です。
近年では、研修プログラムを外注化し、労務管理業務をクラウドサービスに移行する動きも広まっています。
そのため、外部の協力会社との高度なやり取りが求められ、人事関連以外の専門的な知識を身に付けた上でのコミュニケーション能力が必要です。
組織改革の実行力
組織と個人の成長・良好な関係性を構築するためには、人事制度(評価制度)を通した組織改革が必要です。
社員の意識改革を促す上でも、適切なプロセスを通じた組織改革を実施し、時には現場社員の反発を乗り越えていく実行力が求められます。
戦略的・論理的思考力
管理業務が中心だった人事部は、現在、経営戦略に深く関わる「戦略人事」を重視するようになりました。
そのため、人事部担当者には経営戦略を人事戦略に落とし込める戦略的思考力に加え、中長期的な人事計画を立案し、「現状の人事制度が組織にどんな影響をあたえているか」を考える論理的思考力が求められます。
ITシステムを活用し、感情や経験則に頼らない数値を前提とした分析能力も必要です。
多様化・複雑化する人事部の業務内容
多様な価値観の浸透やライフワークバランスが重視される現代において、人事部の業務内容はどんどん多様化・複雑化しています。
今後、人事部担当者として力を入れていくべき業務の一部を確認しておきましょう。
グローバル人事への対応
グローバル人事とは、進出先の国・地域の現地従業員を適切に評価し、人材育成につなげる人事施策です。
通信インフラの発展や国内需要の低下に伴い、グローバル競争が過熱していることからグローバル人事の需要が高まっています。
海外進出を果たしている企業にとって、日本的慣行が色濃い人事制度をそのまま運用していては、適切なガバナンス体制(コントロール体制)の構築ができません。
そのため、日本国内を含む全世界の従業員に適用できる公正・公平なグローバル人事が求められてます。
次世代リーダーの育成
現在の日本企業には次世代リーダーを育成する環境が整っておらず、海外進出を担うグローバル人材や経営幹部候補社員の育成が急務となっています。
次世代リーダーには新たな市場を切り開くリーダーシップやマネジメント能力、経営全般の高度な知識が求められ必、育成には多大な時間と費用が必要です。
人事部は次世代リーダー育成のゴールや、次世代リーダーに求められる条件・人物像を明確化し、候補者の選抜やトレーニングの設定・実施を主導する役割・業務が期待されています。
一億総活躍社会への対応
生産労働人口が減少し、深刻な人手不足に陥っている日本では、女性や高齢者の労働参加を促す動きが加速しています。
そのため、従来の20~60歳の男性を前提とした人事制度や労働環境を見直し、テレワークや時短勤務といった多様な働き方を実現できる労働環境の整備が求められています。
今まで以上のメンタルヘルスケアの実施
人手不足による一人当たりの業務負荷は増大しており、過重労働やハラスメントを起因とする職場環境の悪化も懸念されています。
クラウドサービスやパルスサーベイといったIT技術を活用し、徹底した労務管理の下、今まで以上に従業員のメンタルヘルスケアの実施が必要です。
そのため、人事部門には従業員が心身ともに健康に働けるサポート体制の構築が求められています。
まとめ
競争の激しいグローバル経済を勝ち抜くためには、今まで以上に人事部の役割が重要であり、中長期的な人事戦略が求められます。
人事担当者のスキルアップだけでなく、組織横断を前提とした連携も必要です。
経営者も人事部担当者もいま一度、人事部の仕事や役割を見直しておきましょう。
重要な経営資源である“ヒト”に関わる人事部は、年々、仕事内容が高度化・複雑化し、その役割の重要性が高まっています。