近年、深刻化する人材不足により、多くの企業が採用活動に苦戦しています。
特に、若年層の採用は困難さを増しており、多くの企業が採用難に頭を悩ませています。
しかし、この採用難の背景には、昭和の時代から続く企業文化や人事制度、そして社長や経営幹部の意識に起因する問題も潜んでいます。
「昭和脳」という言葉をご存知でしょうか?
昭和脳とは、終身雇用や年功序列、長時間労働といった昭和時代の価値観や考え方を中心に据え、変化に抵抗する傾向を持つこと
中小企業に限らず、大企業でも昭和脳の社長や経営幹部が、採用や人事の中心的な役割を担っている実態が多く見受けられます。
残念ながら、昭和的な古い価値観や固定観念が、現代の採用活動や社員定着を阻害していることの大きな原因ともなっています。
本コラムでは、昭和脳の社長や経営幹部が陥りがちな人事における問題点を解説し、事業継続し、会社を次世代に残すための解決方法をお伝えいたします。
人材採用と定着できる職場改善
昭和脳の特徴と令和時代のギャップ
中小企業の経営者が高齢化する中で、後継者不足が年々課題となっています。そのため、経営幹部候補を含めた20~30代の育成・定着を真剣に考えなければなりません。
昭和脳の社長や経営幹部はは、長年培ってきた経験や成功体験に基づいた価値観を持っており、それが必ずしも現代社会に適応しているとは限りません。
むしろ、現代の若手世代の価値観や働き方とは大きく異なる場合が多く、採用や定着において大きな障壁となっています。
昭和脳の社長と経営幹部の考え方と現代の違い
昭和と令和では、社会情勢や価値観、働き方が大きく変化しました。
昭和の時代は、高度経済成長期にあたり、終身雇用や年功序列が一般的で、企業は安定した成長を遂げていました。
一方、令和の時代は、グローバル化やデジタル化が進み、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
人材の流動性が高まり、多様化する働き方が求められるようになりました。
項目 | 昭和脳 | 令和の考え方 |
---|---|---|
雇用形態 | 終身雇用、年功序列 | 多様な雇用形態、能力主義 |
働き方 | 長時間労働、企業中心主義 | ワークライフバランス重視、個人の自由と主体性 |
コミュニケーション | 指示命令型、トップダウン | 双方向型、フラットな関係 |
人材育成 | OJT中心、画一的 | 多様な学習機会、個別の成長支援 |
組織文化 | 年功序列、上下関係重視 | 多様性と包容性、個人の能力を活かす |
昭和と現代の違いを理解し、昭和脳の社長や経営幹部が、令和時代の変化に合わせた柔軟な対応をしていくことが、人材確保と定着には不可欠です。
しかし、そんなことでは会社は回らないし、そんなに社員を甘やかしては売上や営業利益にも大きく営業が出てしまうとお考えの方は、ぜひ次の章をご覧ください。
人材採用と定着できる職場改善
人的資本の情報開示が義務化
なぜ昭和脳の経営ではまずいのか、それは人的資本の情報開示が義務化されたことが大きいと言えます。
2023年3月期決算以降、金融商品取引法第24条に基づく有価証券報告書を発行する大手企業約4,000社を対象に義務化されていました。
企業が有する人材(人的資本)に関する情報を、社内外に向けて公表することを指します。
今回の法制化では、人材育成や環境整備の方針・指標・目標、従業員満足度、男女間賃金格差、育児休業取得率、女性管理職の比率、人事制度、教育制度などの情報が記載が義務付けられています。
「とは言ってもうちは大企業じゃないし、関係ない」
いいえ、大いに関係あります。
日本政府は人材の流動化を促進させる政策に取り組んでいるだけでなく、今までの社会保障制度の法改正を見ても、大企業だけでなく、中小企業へと拡大させていっています。
そのため、人的資本の情報開示も中小企業へと拡大していくことが予想されます。
中小企業への拡大が法改正が拡大されなくても、先んじて人材獲得のために人的資本の情報開示を行う優良な中小企業が必ず現れます。
もし人的資本の情報開示をしている中小企業とそうでない中小企業があったら、優秀な人材はどちらに入社を希望しますか?
人的資本の情報開示の有無で採用ができる中小企業とそうでない中小企業ではっきりと明暗が別れます。
最も厄介なことは、「人的資本の情報開示をしていない中小企業はブラック企業である」というイメージが拡散されることです。
つまり、採用力をアップしたければ、人的資本経営を目指し、本質的な企業価値を上げていくことが鍵となります。
厳しいようですが、弊社のこれまでの事例では、昭和脳の経営幹部が人事の改革を止めているケースが多く、令和では過去の成功体験は通用しないことがはっきりとわかっています。
人材採用と定着できる職場改善
昭和脳の社長や経営幹部がやりがちな考え方や人事施策
では、なぜ昭和脳で採用が進まないのか、昭和脳の社長や経営幹部がやってしまいがちな考え方や人事施策をご紹介します。
昭和脳の社長や経営幹部がやりがちな人材育成の考え方や人事施策について、ご紹介します。
昭和脳の人材育成に対するよくある考え方
昭和脳の社長や経営幹部は令和脳にしていく必要があります。
「上司なら部下を育てられて当たり前」
「上司なら会社の意向を部下に説明できて当たり前」
もし、こう考えられている場合、今の時代では採用・育成・定着は不可能と言っても過言ではありません。
上司に管理職の役割を果たしてもらうためには、「管理職の仕事や役割」を認識・理解してもらう研修が不可欠です。
現在の管理職はプレイングマネージャーが多く、そもそも人材の育成方法を学ぶことなく、管理職になっていることがほとんどです。
そのため、上司としての仕事が部下の育成や部門業績の達成など明確にし、管理職がどう役割を認識し、人材育成やチームとして業績を達成する方法を落とし込めるかが大切となります。
昭和脳がやりがちな人事施策
次に昭和脳の社長や経営幹部がやりがちな人事施策をご紹介します。
「アットホームな職場です」
弊社の1日のスケジュールに「9:00 メールチェック」
もし、上記の記載に身に覚えがあった場合、昭和脳の可能性があります。
厳しいようですが、どちらもすでに「死語」であり、求職者が応募したくない求人情報です。
そもそも、こういった求人情報が記載されているということは、魅力的な求人情報が書けない証拠です。
そして、よくある人事施策が「人事系クラウドシステムを導入するだけ」です。
人事系クラウドシステムを導入しても、人材育成の体制や管理職の教育、そして人事評価制度の整備ができていなければ、現場で真剣には活用されず、上司が入力だけしていることがほとんどです。
それでは、全く意味がありません。
「5つの見える化」ができないと採用も定着もできない
そもそも、5つの見える化をしなければ、採用・定着・育成はできません。
- キャリアプランの見える化
- 教育プログラム、教育体制の見える化
- 評価制度の見える化
- 賃金制度の見える化
- 職場のコミュニケーションの最適化
上記の5つの見える化ができていなければ、定着や育成はおろか、求人情報に自社の魅力を記載できないため、そもそも採用ができません。
キャリアプランの見える化
入社希望者にとって、入社企業でどのようなキャリアを詰めるかは重要な判断軸です。
終身雇用の時代は終わっており、転職が当たり前となった時代で、自社でどういったキャリアを詰めるか、明確にできなければ、採用はうまくいきません。
昭和脳では、「入社したら愛社精神で身を粉にして働く!」「24時間戦えます!」という価値観が先行しがちですが、そもそも自分のキャリアに役に立たない業務は率先してやりたがる人は少なくなっています。
役割や業務の内容、その業務を経験することで、社内外でどのようにキャリアアップできるか明示できない中小企業は淘汰されていきます。
教育プログラム、教育体制の見える化
昭和脳は何も社長や経営幹部だけではありません。
在籍期間が長いベテラン社員(現場社員)も昭和脳になっている可能性があります。
今でもOJTは優れた教育手法ではあります。
しかし、そもそも現場の社員や管理職が人材育成の力を持っているかどうか、確認したことはありますか?
昭和脳の社長や経営幹部は「上司は部下を教育できて当たり前」と考えるため、そもそもOJTが機能しているかどうかの把握もできていない可能性があります。
人材育成能力がない現場社員による場当たり的なOJTでは、人材育成はかなり難しいといえます。
評価制度の見える化
評価制度の見える化は、上司と部下の信頼関係に関わります。
上司と部下の信頼関係がなければ、人材育成はうまくいかず、どんなに優秀な人材でも退職してしまいます。
「わかりやすく正当な評価ができる評価制度はあるか」
「上司の好き嫌いで人事評価をおこなっていないか」
「上司によって、評価に差が出ていないか」
評価制度を明確化し、共通の評価項目と上司と部下で事前にどういった行動や実績が評価に結びつくか、事前に確認し、約束することで不満のない人事評価が下せます。
賃金制度の見える化
過去類を見ない賃上げが、大企業を中心に実施されました。
次は中小企業がその波に乗れるかが注目されています。
また、現在、最低賃金の引き上げが議論されており、採用や定着に至っては賃金制度が大きな鍵となっています。
適正に実績を評価する賃金制度なければ、社員やスタッフは自分の給与がどのように決まっていき、給料が上がっていくのかイメージができません。
つまり、社員やスタッフが「今の会社ではライフプランを考えられない」と悟った瞬間に退職していきます。
職場のコミュニケーションの最適化
大企業でなく、中小企業にも定着した1on1ミーティング。
しかし、あなたの会社では、きちんと1on1ミーティングができていますか?
管理職育成ができていないと、1on1ミーティングはただの業務連絡になっていることが多いです。
これは中小企業に限らず、大企業にも通じることです。
本来の1on1ミーティングとは、「部下のキャリア支援サポート」です。
1on1ミーティングの本質を理解せず、実施しても逆効果となり、むしろ社員の退職を促進してしまいます。
「最近、どう?」という会話から始まる1on1ミーティングは、管理職の評価は最低評価となります。この会話の始まりこそが、ただの業務連絡になっている証です。
昭和脳を改め、経営幹部候補など管理職育成を実施する
採用・育成・定着するためには、管理職育成が必須です。
先にお伝えしたように、会社として、5つの見える化(キャリアプランの見える化、教育プログラム・教育体制の見える化、評価制度の見える化、賃金制度の見える化、職場のコミュニケーションの最適化)をすることが大切です。
そして、会社がつくった仕組みを運用する役割を担うのが上司となります。
上司が会社の仕組みをスタッフに伝えられなければ、人事施策は浸透しません。
また、上司が育成スキルがないと、スタッフを成長させられません。
今後、中小企業をはじめ、会社という組織は「人事制度の見直し」と「管理職の育成」が最重要となります。
まずは社長や経営幹部の昭和脳を捨て、令和脳にしてからぜひ「人事制度の見直し」と「管理職の育成」からはじめてみましょう。
大橋高広の人事コンサルティングについて
大橋高広の人事コンサルティングは、中小企業を対象とした管理職育成や人事評価制度の立案に強みを持ちます。
「人事を蔑ろにする企業は必ず衰退する」
多くの会社の問題は人事にまつわるものが多いといえます。
大橋高広の人事コンサルティングは「人事制度の見直し」と「管理職育成」に特化したソリューションを強みとしています。
採用や人事育成・定着に課題をお持ちの中小企業様はぜひお気軽にお問い合わせください。
人事制度の見直しも管理職育成もできない時の解決方法
もし人事制度の見直しも管理職育成も難しいという場合の解決方法はひとつです。
それは事業承継、つまりは会社を売ってしまうことです。
会社売却と聞くと少し違和感を感じる経営者も少なくないかと思います。
もちろん、今まで社長や経営幹部の尽力で会社を成長させてきたことは事実であり、それは誰もが称賛するべきことです。
しかし、「人材の採用ができない会社はどうなるのか」
それは会社の価値がどんどん下がることを意味します。
会社の価値低下は社員や取引先、全てのステークホルダーに悪影響を与えてしまいます。
人事制度の見直しも管理職育成も「職場改善のひとつ」です。
会社を成長させ、将来も社員や取引先に良い影響を与えた社長・経営幹部として勇退できるか、それとも最終的に会社の価値を下げて引退するかは、職場改善にかかっています。
コア人材が退職するといった事態が続くと、どんどん打ち手がなくなります。
企業価値もどんどん下がり、気づいた時には買い手もいなくなる…。
そんな最悪の事態になることも十分にあり得ます。
現時点で、事業承継するか、M&Aするかと考えるのではなく、早めにその準備も兼ねて、職場の改善をおこなっておくことが、最後まで会社のために動いた社長・経営幹部としての勇退に繋がります。
お悩みの方はぜひお気軽にお問い合わせください。
スタッフの採用・定着が難航している理由は社長や経営幹部の昭和脳が影響しています。