将来の不確実性が高まる中、職務等級制度や役割等級制度に移行する企業が増えていますが、時流や経営者だけの判断で等級制度を設計することはとても危険です。
- 等級制度の種類
- 等級制度の設計が失敗する原因(経営者と管理職)
- 等級制度を機能させるためにやるべきこと
今回は等級制度の種類だけでなく、大橋が考える等級制度設計で失敗する原因、経営者と管理職が取るべき対策を中心に解説します。
また、本記事の最後では、等級制度設計に欠かせない、社員・職場の課題を把握できる「大橋高広式」分析シートを無料でダウンロードいただけます。
\すぐにダウンロードしたい方はこちら/
等級制度とは:3つの等級制度
等級制度とは、組織の人員配置や給与・賞与、労務管理の基本となる社員の能力や職務、社内での立場を考慮して、分類・順序づける人事制度です。
等級制度には、職能資格制度、職務等級制度、役割等級制度の3つがあります。それぞれの制度には特徴があり、自社に合った等級制度を選択しなければなりません。
▼等級制度の特徴
制度の種別 | 格付けの基準 | 制度のイメージ |
職能資格制度 | 能力(業務遂行に必要な蓄積された能力) | 年功主義 |
職務等級制度 | 職務(仕事・業務) | 成果主義 |
役割等級制度 | 役割 | 行動主義 |
それでは、等級制度をそれぞれ解説します。
職能資格制度とは
職能資格制度とは、社員が保有する能力に応じて、等級を決める制度です。
職能資格制度での「能力」とは、業務遂行に必要な蓄積された顕在的・潜在的能力を指し、すべての職務に共通する能力とされています。
- 歴史がある
- 大企業・中小企業が多く採用
- ゼネラリストの育成と相性が良い
- 成果を考慮せず、評価基準が曖昧になりやすい
- 年功序列的な運用になる傾向が高い
職能資格制度を採用する中小企業も多く、年功序列で給与水準が決まりやすいため、若手社員を中心に不満が出やすい等級制度でもあります。
職務等級制度とは
職務等級制度とは、社員の「職務(仕事)」の内容・難易度に基づいて、等級を決める制度です。
職務等級制度では、属人的な要素を排除し、年齢・経験に関係なく、同じ職務であれば、同じ賃金となります。
- 職務(仕事)の内容・難易度が基準
- 個人の成果に応じた評価がなされる
- 属人的な要素が排除され、自分と他人の仕事の境界線が明確
- 成果主義になる傾向が強い
2020年4月に施行された同一労働同一賃金(中小企業は2021年4月から適用)は、職務等級制度との相性が良いといえます。
法改正に伴い、職務等級制度を導入する企業が増えています。
また、日本企業の多くはチームワークを重視する傾向が強く、中でも中小企業では自分と他人の仕事の境界性が曖昧なために導入時は注意が必要です。
役割等級制度とは
役割等級制度とは、職責を果たすために期待される行動を簡素化・ひとまとめにしたものを「役割」と定義し、能力だけでなく、行動し役割を果たしたかどうかで等級を決める制度です。
能力重視の職能資格制度の欠点である成果・結果を重視しています。
また、定型化・細分化された職務内容のみを評価し、部長・課長などのポジションに応じて期待される非定型業務(マネジメントを含む)を考慮しない職務等級制度の欠点も補うことができます。
- 行動・成果を問うことができる
- マネジメントを含む非定型業務を評価基準にできる
- 職能資格制度・職務等級制度の欠点を克服した制度
- 評価者のレベルアップが不可欠である
役割等級制度は、職能資格制度と職務等級制度の欠点を補える制度として、近年、導入する企業が増えています。
しかし、私情を挟まず、客観的に役割を果たしているかどうかを判断できる評価者のレベルアップ・育成が不可欠となります。
▼各等級制度のメリット・デメリット早見表
等級制度 | メリット | デメリット |
職能資格制度 | 職務評価を実施する必要がない年功序列の運用のため、社員に安心感を与える能力という概念は社員に浸透しやすい異動や移籍など人員配置がしやすい | 保有能力と遂行能力にズレが生じやすい年功序列の社風が形成され、若手が育ちにくい賃金・賞与で不公正感が蔓延しやすい総人件費が高騰し、コントロールがしにくい |
職務等級制度 | 賃金と仕事のバランスがとりやすい専門性の高い人材が育ちやすい職務内容が明確になり、評価を出しやすい総人件費を管理しやすい | 組織・職務が硬直しやすく、柔軟な対応ができないチームワークが低下しやすい職務評価のノウハウが必要となる職務等級制度の運用に長けた人事担当者が必要職務が同じだとずっと同じ賃金で変動がない |
役割等級制度 | 賃金と仕事のバランスが取りやすい役割・責任が明確となる職務評価と比べて、評価が簡単になる総人件費が管理しやすい | 社員の理解度が進みにくい役割等級制度の運用に長けた人事担当者が必要与えられた役割を遂行することに消極的な社員には評価が不利になる |
等級制度設計はなぜ失敗するのか
等級制度は経営コンセプトを明確にし、現場社員の声を反映させなければ、機能しません。
数多くの中小企業の人事を改革してきた大橋は、等級制度が機能しない根本的な原因は2つあると考えています。
経営者の経営コンセプトが明確でない
等級制度がブレてしまう原因のひとつに「経営者が考える経営コンセプトが明確になっていない」ことが挙げられます。
経営者であれば、事業利益を生み出す、つまり成果にこだわり、事業を推進する人材を採用したいと考えることは当然といえます。
しかし、高騰する人件費・原価、不確実性の高い経済状況、さらには年功序列・終身雇用を前提とした滅私奉公の社内文化、その恩恵を受けられた成功体験から「ゆるい賃金カーブを基準とした報酬体系を維持したまま、定年まで働き続けてほしい」という考えが経営者に蔓延している傾向がみられます。
残念ですが、莫大な利益を生み出し、パワフルに事業を推進する人材ほど賃金の急激なアップ(正当かつ高額な成功報酬)を望むため、前述のような人材はこの世には存在しません。
経営者が求める優秀な人材のニーズと企業が提供する報酬制度がミスマッチしており、いわば「経営者の良いトコ取り(安い賃金・報酬で莫大な成果を達成してほしい)」がそのまま等級制度に反映されているため、制度が機能しない事態に陥っていると考えられます。
原因:成果を出す優秀な人間ほど急激な賃金アップを求めており、そうした人材の期待に応えられる等級制度が確立されていない
社員や職場の課題を把握できていない(管理職の育成が不十分)
経営者が社員や職場の課題を正確に把握できていないことも等級制度が機能しない大きな原因といえます。
等級制度を機能させるためには、評価者のスキルアップが欠かせません。
つまり、管理職の育成が不可欠です。
等級制度が機能していない企業ほど、マネジメントスキルに欠かせない「好き嫌いに依存しない客観的な評価能力」や「部下の自律を促す育成能力」が備わっていない管理職(実務評価だけで昇進した人材)が多い傾向がみられます。
管理職の人事評価スキルはマネジメントスキルの中でもトップクラスに難易度が高いスキルです。
そのため、管理職の人事評価スキルを向上させる解決策が必要となります。
原因:評価者である管理職の育成が不十分のため、組織全体のマネジメント体制が崩壊し、等級制度が活かせない
経営者の意識改革と管理職育成がカギ
先述の通り、経営者が求める優秀な人材に「ゆるい賃金カーブのもと、自社で定年まで長く働いてもらう」ことは不可能です。
そのため、本気で企業の成長を考えるのであれば、「優秀な人材は欲しいが、人件費は安く抑えたい」という思考は今すぐに捨てることをおすすめします。
また、評価者となる管理職の育成は不可欠です。
中でも人事評価スキルは、等級制度を機能させる上では欠かせません。
さらに人事評価スキルは一朝一夕で得られるものではなく、人事評価スキルに特化した評価者研修を実施しなければなりません。
人事評価スキルの向上は「被評価者である部下の日常を観察しながら、評価事実を収集する」訓練と、評価者同士の人事データの共有が効果的です。
評価者ひとり一人が収集した人事データの共有は、評価者会議の開催がおすすめです。
▼評価者会議は、以下の手順で開催します。
評価者による発表
評価者が被評価者毎に「当月の当初計画及び修正計画」、「当月の評価事実」、「当月の指導内容」の要点を共有します。
参加者による議論
社長や経営幹部、他の評価者による人材育成・業務改善などに関する意見を発表する。
修正計画の策定
会議内容を踏まえて、来月の修正計画を作成し、人事部に共有する。
人事部による助言・支援
提出された修正計画に対して、人事担当者が助言・支援を行う。
このように、経営者の意識改革や管理者の人事評価スキルの有無を確かめるには、管理職だけでなく、被評価者である部下の意識・考え、そして保有している能力を抽出し、社員や職場の課題を把握する必要があります。
本記事では、大橋が普段から使用している「社員の能力を抽出できる」分析シートを無料でダウンロードいただけます。
\社員・職場の課題を把握できる/
【無料】大橋高広式分析シート
等級制度の立案には、経営者の意識改革と管理職の育成が必要ですが、まずは社員や職場の現状を把握しなければなりません。
普段から大橋が使用している大橋高広式分析シートを無料でご提供します。
分析シートは「スキル分析シート」、「業務分析シート」、「役割分析シート」の3つがあります。記入例も記載しているので、現場のヒアリングの際にお役立てください。
当サイトでは「大橋高広式役割・業務・スキル分析シート」のほかに「社員が辞めないe-book」、「大橋高広式ヒアリングシート」、「大橋高広式分析シート」もご一緒に無料ダウンロードいただけます。
等級制度設計:まとめ
等級制度は、時流や経営者の一存で決めるのではなく、必ず現場の社員と対話し、職場の現状を把握した上で策定しなければなりません。
社員の意識や考えによっては、従来の職能資格制度を維持した方が良い場合があります。
経営者の好き嫌いや感覚で等級制度を推進するのではなく、優秀な人材がどんな報酬体系を求めているか、現場社員はどう考えているかを抽出した上で推進することをおすすめします。
等級制度には、職能資格制度、職務等級制度、役割等級制度の3つがあり、役割等級制度は職能資格制度と職務等級制度の欠点を補っている
等級制度の設計が失敗する原因は「経営者の経営コンセプトが明確でない(良いトコ取り)」、「管理職の人事評価スキルの不足」が挙げられる
経営者の「良いトコ取り」の意識を捨て、人事データを共有することで人事評価スキルを高めていく
等級制度の設計は、企業の将来や収益性を左右する重要な業務のひとつです。