しかし、ITはあくまでツールであり、使用する現場の社員の意識を変え、原理原則に従って、業務を効率化しなければなりません。
今回はECRS(改善の4原則)や「やめること」の重要性、業務効率化の注意点を中心に徹底解説します。
業務効率化とは
業務効率化とは、業務のムリ・ムダ・ムラを洗い出し、仕事を迅速に進めるための職場改善全般を指します。
近年では、人事評価システムや労務管理システムが登場しており、給与計算や勤怠管理、行政手続きなどの労務管理システムや、採用業務を集約化した採用効率化システム、KPIの計測を前提とした人事評価システムが登場しています。
しかし、優れたITシステムの導入の際には、必ず現場との密なコミュニケーションを実施しなければ、仕組み自体が機能不全を起こしてしまいます。
優れたITシステムも現場とのコミュニケーションがあってこそ機能するため、原理原則に沿った業務効率化が必要です。
業務効率化のメリットとは
業務効率化には以下のメリットが生まれます。
- ペーパレス化によるコスト削減
- 情報共有の迅速化、漏れ防止
- リードタイムの削減
- 意思決定の迅速化
- 作業ミスの防止や修正時間の削減
- 業務の属人化の廃止
- 現場のコミュニケーションの増加
- 人件費の削減
業務効率化はコストの抑制や従業員満足度につながりやすく、従業員のモチベーション向上や注力すべきコア業務への集中が可能となります。
生産性向上との違いとは
業務効率化と似た概念に生産性向上が挙げられます。
生産性向上とは、労働、資本、全ての生産の割合に対して、限られた時間内でどれだけ成果を上げられるかを目的にしています。
そのため、成果や目標につながるコア業務に集中、または特化することを優先しています。
一方で、業務効率化は業務の効率化を通じて、コストを削減することを重視しています。
業務効率化は削減できた人的リソースをコア業務に回し、結果的に生産性向上につながるため、混同されやすい概念です。
しかし、業務効率化はコスト削減を第一の目的としているため、厳密には生産性向上とは異なる取り組みといえます。
ECRS(改善の4原則)とは
ECRSの原則とは、業務改善を実施する際に注目する視点と順番を定義した原則であり、「改善の4原則」とも呼ばれています。
ECRSは4つの視点の頭文字を合わせた造語で、以下4つの原則から成り立ちます。
- 排除(Eliminate)「やめること」
- 結合(Combine)「まとめて行うこと」
- 交換(Rearrange)「変化すること」
- 簡素化(Simplify)「単純にする」
排除(Eliminate)「やめること」
業務改善や業務効率化の中で、最も大切な視点である「排除」は、目標や成果に到達するための過程の中で本当に大切な業務は何かを考え、思い切って「やめること」を指します。
決まった人的リソースの中で新しいことをやるためには、既にある業務を辞め、その時間を新しいことに当てなければなりません。
「やめること」をなくして業務効率化はあり得なく、暗黙の了解や慣習で必要だと思っている業務こそ必要ない業務であることが多々あります。
長時間労働や人海戦術、業務外での会議、掛け声だけの業務効率化は離職率の増加につながり、優秀な人材の流出にもつながります。
結合(Combine)「まとめて行うこと」
分業化は日本の製造業を支えた優れた生産体制であり、その考え方は製造分野だけでなく、営業部門や企画部門、人事部門にも波及し、それなりの効果を発揮しました。
しかし、分業化が多くのムダな業務を生み出していることも事実であり、まとめて行える業務は必ず存在します。
業務の本質や目的を見極め、同時に進行できる複数の業務がないか確認することが大切です。
交換(Rearrange)「変化すること」
業務プロセスの順番を変更することで、業務効率化につなげられるかどうかを検討する視点です。
近年の採用部門では、「誰でも歓迎!」という文言や給与面、突飛な福利厚生を前面に出して、採用している企業が増えています。
「求人を出す→採用する→人員配置する」という今までのプロセスでは、ミスマッチや離職率の増加につながり、かえって採用コストや人件費がかさんでしまいます。
そのため、「人員配置する⇒採用計画を作成する⇒求人を出す⇒採用する」といったように、採用計画を事前に立て、欲しい人材の定義をしっかり作成するという一見手間がかかる作業を、求人の前に移動させる、または新たに追加することで、採用後のトラブルの発生を抑えることにつながります。
簡素化(Simplify)「単純にする」
業務の一部を省略しても成果や目標の達成に大きな影響がないことを見つけ出す作業を指します。
主に報告や相談、資料のテンプレート化、会議や発表の待ち時間の削減などが該当します。
業務効率化は「やめること」
業務効率化は、優れた人事評価制度やITツールの使用だけでは実現できません。
制度の企画立案やツールの使い方を学ぶ社員教育の導入など、新しいことをやるためには今以上に人手が必要です。
そのためには、今までやってきたことを「やめること」から始めなければなりません。
「やめてみて、業務のスピードが上がった」、「社員のモチベーションが上がった上、長時間労働がなくなった」など「やめること」が効果的に働き、業務効率化に至った事例は数多くあります。
長らく行っている定型業務や会議も、無意識のうちに重要な業務であると認識している可能性があります。
「重要で必要な業務」が本当は必要なかった業務だったことも珍しくありません。
管理職や現場の社員もまずは「やめること」から始めることが大切です。
業務効率化における注意点
業務効率化を実施しようとする企業の中には「具体的な実現方法の提示がない」、「ただの声かけに終始する」、「ITシステムを導入したけども機能していない」などの課題が浮き彫りになることも珍しくありません。
今回は業務効率化における、特に注意したいポイントをご紹介します。
口だけの残業削減は逆効果
残業削減から入る業務効率化は、仕事の持ち帰りや労働時間(出退勤)の改ざんにつながり、社員全員が疲弊していきます。
「業務を効率化して、早く帰れ」といった残業時間の削減目標だけを示し、具体的な業務効率化の実現方法を示さないやり方は管理職・経営幹部として失格です。
また、残業時間を人事評価のKPIとして設定し、現場の社員に業務効率化を促す行為も同様に、社員に対してマイナスの影響しか与えません。
優秀な人材を配置する、「やめる」業務を選定する、複数の業務の一元化、業務プロセスの簡素化といった具体策を検討し、本当に必要であれば、業務改善ツールの導入も検討しましょう。
ベテラン社員ほどボトルネックになりやすい
業務効率化は現場の社員が主体となり取り組むべきものですが、決裁権限や属人化しやすい高度な技術を持つベテラン社員こそが業務効率化の障害になりやすいと言えます。
そのため、いくら現場の社員が業務効率化の実現方法を実践したとしても決裁や仕上げの業務を担うベテラン社員が業務効率化できなければ、組織としての業務効率化が難しくなります。
必要に応じて、ベテラン社員の権限委譲やプロセスの簡素化に取り組まなければなりません。
まとめ
業務効率化を実現するためには、ECRSの原則や「やめること」の徹底といった原理原則に従い、進めていくことが大切です。
また、口だけの残業削減は社員を疲弊させるだけであり、決裁権限を持つ管理職や業務が属人化しやすいベテラン社員に業務効率化を阻む原因が潜んでいることが珍しくありません。
今回、ご紹介した視点や注意点を踏まえて、業務効率化の実現方法を模索してみてください。
人事評価システムの導入により、社内の業務が効率化し、社内コミュニケーションも促進する動きが加速しています。