企業として、社員の副業解禁に応じた、柔軟な対応が求められています。
今回は社員の副業解禁のメリットや、企業が行うべき対策、注意事項を中心にご紹介いたします。
社員の副業解禁の背景
政府主導で就業規則が大幅に変更され、社員の副業を解禁した背景には「経済活性化の一環」と「終身雇用・年功序列制度の崩壊」が挙げられます。
経済活性化の一環
政府が改定した就業規則モデルの「第14章副業・兼業 第68条」には、
労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
と記載されています。
この副業・兼業の改定には、経済活性化が目的と考えられます。
従来のように給与が右肩上がりで上昇しない現代社会において、副業・兼業の解禁は、企業に勤める社員の経済力を向上させることが可能です。
その結果、従業員の経済力が高まれば、消費ニーズが高まり、景気回復の要素となると注目されています。
また、副業・兼業は日本人の潜在的な創業意識を高め、イノベーションの創出につながると期待されています。
終身雇用の崩壊
バブル崩壊以降、経営環境の不確実性が増し、従来までの終身雇用制度が事実上崩壊しています。
2019年4月に日本経済団体連合会(以下、経団連)会長である中西宏明氏が
「今後、企業が終身雇用を続けていくことは難しい」
と発言をしており、「今後は労働者自身が柔軟な働き方を推進し、ひとつの企業に依存しない姿を目指すべき」という企業の考えが表れているといえます。
そのため、副業・兼業を許容し、優秀な人材の獲得・育成を兼ねた社員の成長を促したいと考えられます。
社員の副業がもたらすメリット
2018年1月に副業・兼業が解禁されたにも関わらず、日本企業の半数が「原則、副業・兼業禁止」としており、今後の動向が注目されています。
一方で、社員の副業は企業にも大きなメリットを与えてくれます。
社員の成長促進
従来の雇用体制では、社内や所属する業界の中でしか通用しない知識・技術の習得に留まり、グローバル化する経済に充分な対応ができません。
副業・兼業の解禁は、社員の新たな知識や経験の習得を促進し、新たな発想を生み出す効果が期待できます。
その結果、自社の事業機会の拡大につながり、社内活性化につなげることが可能です。
優秀な人材の確保
副業・兼業は従業員の空いた時間を有効活用し、既存の技術を活かした社外での経済活動が可能となります。
一方、企業は自社にない知識や技術、ノウハウを持つ優秀な人材を確保でき、新たな事業拡大や労働力不足の改善にもつながります。
外部から優秀な人材を受け入れることは、自社の組織改革や生産性向上にも効果的です。
さらに社員に副業・兼業を容認することは優秀な人材を定着させ、離職率の改善や従業エンゲージメントの向上も期待できます。
企業イメージの向上
社員への副業・兼業の容認は社外に「働きやすさ」をPRできるため、企業イメージの向上にも効果的です。
現在、「副業OK」としている企業が増えており、求職者も社員の柔軟な働き方を尊重する組織風土を重視しています。
いち早く副業・兼業を容認する姿勢を打ち出すことで、採用活動を有利に進めることも期待できます。
社員の副業に対する対策
今後、企業が終身雇用や年功序列体制に維持ができなくなる以上、副業・兼業の容認は避けては通れない人事戦略のひとつです。
そのため、企業は今後の副業・兼業の解禁(容認)に向けた対策の導入が求められています。
就業規則の改定
現在、就業規則に「副業・兼業の禁止」を記載している企業も多く、副業・兼業を解禁する場合は就業規則を改定しなければいけません。
厚生労働省のホームページには副業・兼業の解禁に対応した就業規則モデルが公表されており、就業規則モデルを基に改定を行うと効率的です。
中でも「第14章副業・兼業 第68条」は内容に大きく変更されていますので、以下のポイントに注意しましょう。
所定の届け出について
就業規則モデルには、労働者が副業・兼業を希望する場合、「事前に会社の所定の届け出を提出する」と記載されています。
人事・労務管理上、社員が社外で従事している業務の把握はリスクマネジメントにもつながります。
副業・兼業の禁止・制限条件
副業・兼業を希望する労働者が以下の事項のいずれかに該当する場合、企業は副業・兼業の禁止、または制限を可能としています。
事業・業務内容によっては、上記以外の事項が必要となるため、自社に沿った禁止・制限事項を検討する必要があります。
新たな決裁フローの導入
就業規則モデルには、「労働者は勤務時間外において、他の会社の業務に従事することができる」とする一方、副業・兼業を希望する社員には事前の届け出の提出を推奨しています。
そのため、副業・兼業を人事制度に盛り込む場合、「副業・兼業の申請・許可」を決裁できる新たなフローが必要です。
決裁の判断項目には「副業・兼業の業務内容」、「業務を従事する企業名」、「想定できる報酬金額」、「禁止事項の確認」などの申告事項を盛り込みましょう。
副業・兼業を通じて、自社にどのような貢献ができるかを判断するために面談を導入することも効果的です。
明確なガイドラインの作成
副業・兼業を解禁・容認するには、明確なガイドラインが必要です。
副業・兼業における注意事項・禁止事項や申請フロー、または具体的な副業・兼業の働き方の事例を明確にしておくと副業・兼業の推進に役立ちます。
また、ガイドラインの作成は制度の形骸化を防ぎ、社員の不安や意識改革にも効果的です。
社員の副業への注意ポイント
社員の副業解禁に伴い、今後、企業は副業・兼業に関する正しい知識を持ち、時代に合った働き方を推奨していかなければいけません。
そのため、社員の副業・兼業を容認する際は以下のポイントに注意しましょう。
副業・兼業の規制は無効になりやすい
2018年1月に社員の副業解禁が実施される前から副業・兼業に関わる裁判が行われており、「副業・兼業を禁止・制限できる明確な事由がない限り、勤務外の時間は労働者の自由が保障される」という判例が出ています。
そのため、就業規則で一方的に副業・兼業を規制(または禁止)することは、事実上、難しいと考えなければいけません。
しかし、事業・業務内容によって、副業の禁止・制限の事項は自由に追加でき、導入する企業の実態に合った社員の副業・兼業制度を作ることができます。
企業風土との相性
副業・兼業が推奨される一方で、副業・兼業自体が企業風土と相性が良くない企業も存在します。
国家戦略に関わる事業に取り組む企業や高度な専門知識を必要とする企業には、副業が企業・社員ともに悪影響を与える場合があります。
また、現在の業務が趣味の延長上である社員(ゲーム・アニメ制作、アパレル、サービス業など)には、敢えて副業・兼業を推奨する理由を浸透させにくい傾向があります。
そのため、副業・兼業の推奨が逆に社員のモチベーションの低下や離職率の増加につながることも考えられます。
副業・兼業を推奨する場合、企業として「副業・兼業の容認を通じて、どのような効果を期待しているか」を明確にし、社員に目的と理由を十分に浸透させなければいけません。
適切な労務・健康管理の実施
副業・兼業は、本業の勤務時間外に行わなければならず、その結果、長時間労働につながりやすいと指摘されています。
そのため、副業・兼業が原因となる長時間労働を未然に防ぎ、労務提供上に支障が出ないように企業がフォローする必要があります。
定期的な面談を通じて、「副業・兼業の成果を確認する」、「健康上に問題がないか」、「本業の業績や業務への姿勢に悪影響がないか」を確認し、適切な労務・健康管理を実施しなければいけません。
2018年1月に働き方改革の一環として、政府は労働者が柔軟な働き方ができるように副業・兼業の就業規則モデルを大幅に変更しました。