近年、採用基準や評価基準を明確化する動きが広がっており、コンピテンシー評価への注目度も高まっています。
今回はコンピテンシー評価の導入方法やメリット、注意点をご紹介いたします。
コンピテンシー評価とは?
コンピテンシーとは、自社が求める高い業績・成果を生み出す優秀な人材の行動特性を指します。
コンピテンシー評価は、モデル化を行った人物の行動特性を、評価基準や評価項目に設定し、効果的な人材育成や採用活動に活かす取り組みです。
企業側が求める優秀な人物像を管理職・一般社員に対して、具体的に提示しやすく、人材育成や採用活動にも活用できます。
生産労働人口の減少により、優秀な人材確保が難しくなる中で、採用のミスマッチ防止や戦略的な人材育成に活用できる取り組みとして注目されています。
コンピテンシー評価のメリット・デメリット
コンピテンシー評価の導入は、社員のモチベーション向上や公正公平な評価などさまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在します。
今回はコンピテンシー評価の代表的なメリットやデメリットをご紹介いたします。
コンピテンシー評価のメリット
コンピテンシー評価の導入は、以下のメリットをもたらしてくれます。
上司の主観による評価の防止
上司が適切な人事評価を行うためには、部下とのコミュニケーションを通じた信頼関係が必要です。
そのため、コミュニケーションが不足している場合、評価対象者への周囲の評判や思い込みに左右されてしまい、適切な人事評価ができなくなります。
コンピテンシー評価では、評価基準を明確化にしているため、上司の主観による評価のズレを防止し、部下も納得できる評価を得やすくなります。
その結果、評価に対する社員の不公平感の是正に効果的です。
戦略的な人材育成の実施
コンピテンシー評価は、事業毎に必要な優秀な人材を明確化し、従業員一人ひとりに提示できるため、企業が求める能力や人材を社員に伝えやすく、適材適所の人員配置や人材マネジメントが可能です。
人材育成を担う管理職も成長過程を評価しやすく、育成対象となる部下も「自分にはどんな行動や能力が足りないか」を把握しやすくなります。
また、異なる管理職や上司による育成のバラつきを防げるため、組織全体の業績向上が可能です。
その他、社員のストレス・不満の解消や社員一人ひとりの能力発揮にもつながります。
採用活動のミスマッチ防止
新卒一括採用や職務遂行能力を評価する転職が一般的な日本企業では、企業と入社希望者とのミスマッチが発生しやすく、早期退職や採用コストの増加が問題視されています。
コンピテンシー評価は自社が求める優秀な人材の行動特性を明確化するため、採用活動における評価項目に活用することが可能です。
そのため、書類や面接の段階で自社が求める人材を特定しやすく、入社後の人材育成もしやすくなります。その結果、ミスマッチを防ぎ、退職率の改善も期待できます。
コンピテンシー評価のデメリット
コンピテンシー評価の導入には、以下のデメリットが考えられます。
導入が難しい
コンピテンシー評価は、導入する企業の優秀な人材の行動特性を特定し、評価基準を決定していくため、標準モデルやテンプレートが存在しません。
そのため、モデルの開発や評価基準の決定に多大な時間と労力が必要となり、短期間での導入が難しい傾向があります。
また、一度定義した行動特性や評価基準は経営環境の変化により適合しなくなる恐れがあります。
そのため、メンテナンスや再定義、運用に多くのコストがかかってしまいます。
行動特性が適さない恐れがある
コンピテンシー評価の行動特性は、自社に適さない恐れもあり、今までのモデル構築や運用コストが無駄になる可能性があります。
そのため、環境の変化やビジネスモデルの変更があった場合や運用結果を見て、定期的な見直しが必要です。
コンピテンシー評価の導入方法
コンピテンシー評価は自社で高い業績や成果を出している人材をモデル化し、人事評価項目や評価基準に落とし込みます。
社員ひとり一人が理想とするコンピテンシーモデルに向かって、目標設定を行い、上司・同僚から評価を受けると同時に自己評価を行うため、精度の高い人材育成が可能です。
優秀な人材へのヒアリング
自社で高い業績・成果を生み出す人材を特定し、日々の行動や特異な能力をヒアリングします。
複数人の候補者からヒアリングを行うことで、共通する行動特性や発揮する能力の分析が可能となります。
優秀な人材の選定には、各事業部の管理職から情報を提供してもらい、候補となる対象者の同僚や部下にもヒアリングを行った上で総合的に評価が高い人材を選択します。
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具体的な人物像のモデル化
優秀な人材からヒアリングを行った際の共通項目を取りまとめ、自社のニーズに沿った具体的な人物像をモデル化していきます。
コンピテンシー評価のモデルは、理想モデルと実在モデルの2種類が存在します。
理想モデルは自社の経営理念や事業が理想とする人物像のモデルです。
自社が希望する人材が見つからなかった際に活用するモデルでもあり、企業の意向を反映できます。
実在モデルは各事業部の情報提供で探し出した候補者からのヒアリングを基に作り出したモデルです。
そのため、社員への提示もしやすく、自社に合ったコンピテンシー評価につなげやすい特徴があります。
評価項目・評価方法の決定
コンピテンシー評価の評価項目は導入目的や職種毎に異なります。
しかし、優秀な人材の主な行動特性は、達成行動(達成思考や率先力など)や対人支援、対人交渉力、意思決定能力、ストレス耐性、管理領域(人材育成力、リーダーシップなど)等が注目されやすい傾向があります。
これらの行動特性を評価基準として、数値による管理を行うことで、精度の高い人事評価制度の導入が可能となります。
コンピテンシーモデルの評価項目例
コンピテンシーモデルは、事業部や職種、役職、業務によって、モデル像が異なります。
また、異なるモデル像の評価項目も異なります。
求められるコンピテンシーモデルには「優れたリーダーシップを持つモデル」、「業務遂行能力に優れたモデル」、「業績・成果への達成意欲が高いモデル」、「チームワークを推進するモデル」などがあります。
各モデルに設定されやすい評価項目は以下となります。
【コンピテンシーモデル毎の評価項目】
コンピテンシーモデル | 設定されやすい評価項目 |
---|---|
リーダーシップ型モデル | 人物評価、知恵・技術の結集力、指導・育成力、決断力、対応力、調整力、自己研鑽力 |
業務遂行能力型モデル | 誠実性、几帳面、問題処理能力、計画性、安定性、課題解決力、行動・時間管理能力 |
業績・成果必達型モデル | 目標達成意欲、ストレス耐性、顧客対応力、リスクテイク、徹底性、係数処理能力 |
チームワーク推進型モデル | 思いやり、親密性、傾聴力、コミュニケーション能力、チーム力、マネジメント力、関係構築能力 |
コンピテンシー評価導入の注意点
コンピテンシー評価を導入する際は、以下のポイントに注意し、効果の高い人材育成や採用活動に活かします。
今回はコンピテンシー評価導入時に注意したいポイントをご紹介いたします。
成果や業績を基準に決定していく
コンピテンシー評価は成果や業績を基準に行動特性を決めなければいけません。
コンピテンシー評価はあくまで客観的な数値を根拠に評価基準や評価項目を決定し、評価対象の社員を公正公平に評価するための取り組みです。
そのため、数値化できるように評価基準や評価項目を設定し、モデル化を進めていかなければいけません。
モデル化で完璧を目指さない
企業が求めるコンピテンシー評価の人物像と完璧に合致した人材は、基本的に存在しないため、モデル化を行う際は「モデル像と完璧に合致したヒアリング対象は探せない」と認識しなければいけません。
また、企業が求める理想像が高すぎると、社員に提示しても実現不可能なお手本となってしまう恐れがあります。
人材育成では、対象社員の強みや良さを見つけ出し、伸ばす努力をした上で、軌道修正や見直しの根拠や参考値にコンピテンシー評価を活用します。
長期的な運用と定期的な見直し
コンピテンシー評価は、環境変化やビジネスモデルの変更に弱く、定期的な見直しが必要です。
また、効果的な人材育成や自社が求める採用活動を行うためには長期的な運用が前提となるため、人事部が中心となって、経営者から一般社員までを巻き込んだ運用が求められます。
コンピテンシー評価とは、与えられた職務や役割において、優秀な業績や成果を生み出す行動特性を可視化し、人材育成や採用活動に活用する取り組みです。