特に中小企業では、導入したものの自社に合わないなどの理由で改善に至るケースもあるのですが、では人事制度改革を成功させるために必要なこととはなんでしょうか?
人事制度改革の目的を間違えないこと
せっかく改革できたと思っても、費用や手間が掛かっただけに終わり、全く効果を発揮しないことはよくあるケースです。
このような結果になる理由の多くは、人事制度改革の目的が間違っているからです。
「取引先から要請された」、「同業者でも導入し始めた」などの理由で改革しても、結果的にお飾りの人事制度になってしまうことが多いのです。
では人事制度を改革している会社は、どのような目的で改革し、効果を上げているのでしょうか?
その答えを知ることは、すなわち「人事制度とは何か?」を知ることに他なりません。
- 「仕事を行うこと」、それに対する「処遇」に関して、社員と会社との約束事
- 社員のモチベーションを上げ、会社を発展させる仕組み
1に関しては、平たく言うと「どれだけ仕事をすれば、どれだけの評価・給料をもらえるのか」についてのルールを定めているものです。
このルールが無ければ、当然ながら社員は安心・納得して仕事に打ち込むことはできません。
また会社は法律に基づいて事業を展開していかなければなりませんが、そのためにもルールは必要なのです。
一方、2に関しては1で定めた約束事、ルールを正しく運用することで得られる効果と捉えるべきものではないでしょうか。
人事制度を導入することで、「社員と会社との関係は良好になり、業績の向上につながる」と考える経営者がいるかもしれませんが、そのためには正しい運用が大前提なのです。
つまり、「体裁だけを整えること」、「ルールを定めること」だけを目的に人事制度を改革する場合、高い確率で失敗に終わるのではないでしょうか。
しかし、2に示したように「モチベーションを上げる」、「会社を発展させる」ことも含めて人事制度を改革するのであれば、結果は全く違ってくるはずなのです。
人事制度改革にはお金と時間が掛かります。
当然、経営者としては社員のモチベーションアップ、ひいては会社の発展を期待したいところです。
しかしながら、改革に対する目的認識を間違えれば、いくら「人事制度改革」と称した変更を行ったとしても、効果は得られないのです。
人事制度改革の進め方を間違えないこと
人事制度は、社員に安心感と納得感を与え、ひいてはモチベーションアップ、会社の発展につながるものです。
しかし、社員の不安や不満は時とともに変化するものであり、人事制度導入時には無かった不安・不満が新たに出てきたとしても何ら不思議ではありません。
例えば、「結婚した」、「子供が生まれた」などは喜ばしい反面、不安も増えることでしょう。
また、会社の発展とともに社員が増え、新たな事業所や第2工場などができれば、働き方にも何らかの影響はあるでしょうし、社員が増えること自体、それだけ人事制度に対する多様な意見が生まれるものなのです。
このような背景から人事制度改革が求められるわけですが、そのためにまずやるべきことは「社員は今、何に不安を覚え、何に不満なのか」を把握することなのです。
この「従業員意識調査」と呼ばれる手順を踏まずに人事制度改革を行ったとしても、効果は出ないのです。
一方、進め方において認識しておかなければならないことがもう一つあります。
それは、すべての社員が安心・納得する人事制度改革は難しいということです。
経営者であれば、できれば全社員に歓迎される制度にしたいと考えるのは当然ですが、そのことを前提に人事制度改革を進めても、どこかに無理・矛盾が出てしまうものなのです。
例えば、「積極性・チャレンジ」を評価して欲しい社員がいれば、「安定性・ノーミス」を評価して欲しい社員がいるかもしれません。
また賃金においても営業部門と工場部門では考え方が異なるかもしれません。
営業部門は個人業績に連動させたいと思う一方、工場部門では安定的にアップしていくような考え方を優先するかもしれないのです。
いずれも各社員の真意ではあるものの、このような考え方を並立させることは難しく、仮に実現しようとすると結果的に曖昧な制度となり、誰からの賛同も得られないことになるのではないでしょうか。
ここで重要になってくるのが経営者です。
経営者は「会社をどうしたいのか」、「そのために社員に何を望むのか」、そして「その結果として社員はどのように評価されるのか」、これらの点を整理し、自身の声で社員に伝える、説明することが重要なのです。
決して経営者の考えを押し付けるのではありません。
社員の声を尊重しつつ、理解を得ることなのです。
容易なことではありませんが、様々な考え方、背景を抱えた社員を一つにまとめ、モチベーションを上げていくのも経営者の大切な役割だと認識することが必要ではないでしょうか。
人事制度改革は従業員の仕事を増やしてしまう
第1章でも申し上げましたが、人事制度改革は単に体裁を整えることではありません。
正しく運用し、社員のモチベーションを上げ、会社の発展につなげなければならないのです。
では、正しく運用するために必要なことはなんでしょうか。
それは人事担当者以外の社員の協力です。
例えば、工場で働いている社員が、いつも事務所にいることが多い人事部員に人事評価されることを受け入れるでしょうか。
営業担当にしても同じです。
当然ながら、普段から自分の仕事ぶりを間近で見ている直属の上司に評価してほしいと思うでしょう。
ということは、それぞれの直属の上司に「評価」という仕事を行ってもらうよう、協力してもらわなければならないのです。
つまり、人事制度改革を成功させるためには社員の協力、言い換えると、仕事を増やさなければならないのです。
また「育成」の場面でも同じことが言えます。
新入社員に機械の操作方法や仕事の流れを教えるのは、同じ部署の先輩社員であることがほとんどです。
しかし、先輩社員にはそもそもの仕事、本来の役割があるはずです。
ということは、先輩社員にとって、「新入社員の育成」というのは仕事が増えることになるわけです。
このように人事制度改革は社員の仕事を増やす結果となるのですが、それにより上司や先輩社員の不満が爆発したのでは人事制度改革どころではありません。
本末転倒なのです。
では、「仕事が増える」ことを認識した上で、どのような対策が必要なのでしょうか。
それは「人事評価」や「育成」を仕事にすることなのです。
「仕事にする」ということは、「評価の対象にする」ということです。
「人事評価者として、正しく評価を行う」、「教育担当として新入社員の育成を正しく行う」ことを上司や先輩社員の人事評価に結びつけるのです。
今まで取り組んでこなかったことに取り組むからこそ、「改革」なのです。
改革にはパワーが必要ですが、そのパワーを発揮した人を評価することも重要であり、これらを含めて「人事制度改革」なのです。
まとめ
会社にとって、人事制度を導入したからこそ表面化する問題点、矛盾点などもあるのではないでしょうか。
高度経済成長期であれば、多少の問題を抱えつつも会社は成長できたかもしれませんが、現代はそうではありません。
地球の裏側で発生した出来事に一喜一憂しなければならない時代なのです。
変化の激しい時代に合った人事制度が求められます。
一方、経営者一人で事業を行うのであれば人事制度は不要であり、社員を雇うからこそ人事制度が必要なのです。
さらに会社が発展し、社員が増えることで社内に多様な考え方が生まれ、それに対応する形で人事制度改革につながっていくのです。
まさに、人事制度改革は企業の「成長の証し」ではないでしょうか。
「人事制度改革」、何かとても難しい言葉に聞こえますが、要は人事制度を改善するということです。