しかし、多くの人にとって働く目的の一つとして挙げられるのは「お金を得るため」ではないでしょうか。
と言うことは、社員のモチベーションを上げるためには、「たくさんのお金を与えれば良い」ということになるのかもしれませんが、本当にそうなのでしょうか?
今回は中小企業における「賃金制度」についてお話したいと思います。
賃金制度見直しと社員のモチベーションとの関係
まずは次の調査結果をご覧下さい。
これは、平成28年7月に内閣府が行った「国民生活に関する世論調査」から抜粋したものです。
およそ2人に1人が働く目的として、「お金を得るため」と回答しています。
この結果を見ると、たくさんの賃金を支払うように賃金制度の見直しを行うことで社員の満足度が上がり、更にはモチベーションアップに繋がると考える社長がいらっしゃっても何ら不思議ではありません。
しかし、これまで多くの企業、特に中小企業で賃金制度の構築に携わった経験から申し上げると、社員の視点は少し違うところにあるようです。
一般的な調査結果やセミナー、本では分からない、社員のホンネが見えてきたのです。
賃金制度の設計ポイントは「相対性」
社員にとって賃金は多いに越したことはありません。
しかし、これだけで社員のモチベーションは上がりません。
仮に大幅な昇給を行い、モチベーションアップを狙ったとしても、その効果は長くても数ヶ月という結果になるでしょう。
では、社員は何を基準に賃金というものを捉えているのでしょうか?
- 自分の給料と同期のA君の給料との比較
- 自分の給料とB部長の給料との比較
具体的に申し上げると、社員は賃金の多い少ないよりも
「なぜ仕事が遅いA君と同期だからという理由だけで給料が同じなの?」
「なぜ仕事もせず、パソコンばかりいじっているB部長があんなに給料をもらって、必死にやってる俺がこの給料なの?」
という視点で賃金を捉えているのです。
いくら絶対的な賃金を増やしても、この相対的な比較に対する不満を取り除かなければ、いつまでたっても社員のモチベーションは上がってこないのです。
中小企業にとって「社員の定着」は死活問題です。
そして社員の定着には、モチベーションアップが欠かせません。
中小企業における賃金制度はこの点に最大限の注意を払う必要があり、そのポイントは「賃金の相対性」にあるのです。
賃金制度と採用
第2章で賃金の相対性についてお話をしましたが、実は「絶対的な賃金」が影響する場面もあるのです。
それは採用です。
これから就職を検討する人にとって、会社の内部事情は分かりませんので、同じ職種、同じ仕事量であれば賃金の高い会社に応募することになるはずです。
これからの人手不足時代を考えると、少しでも良い賃金制度でアピールしたいところですが、身の丈に合わない賃金制度は会社の存続に関わります。
中小企業が大企業並みの賃金制度を構築することは実質的に困難なのです。
賃金制度が採用に与える影響はたいへん大きいですが、中小企業においては賃金制度以外の魅力を発信していく必要もあり、これは人材流出への対策にも繋がってくるのです。
賃金制度における諸手当の位置づけ
賃金制度と言えば「基本給」や「賞与」といった項目に目が行きがちですが、この章では敢えて、「諸手当」に焦点を当てたいと思います。
その理由は、これもこれまでの経験から申し上げるのですが、意外と社員の間で不満が多いからなのです。
例を挙げてみましょう。
家族手当
配偶者や子供がいる社員には支給されますが、独身者には支給されません。
仕事面とは全く関係が無いにも関わらず支給されるという点においては、独身者の不満が溜まっているケースがあります。
役職手当
役職手当<残業代となってしまっているケースです。
つまり手取り金額に換算すると、非管理職者の方が多いという逆転現象が起こっているのです。
管理職者の不満はもちろんですが、非管理職者が管理職になりたいというモチベーションにも悪影響を及ぼしているのです。
会社としては良かれと思って支払っている手当であるにも関わらず、社員の受け止め方は意外なものなのです。
これが現実です。
それでは、賃金制度の構築、あるいは見直しにおいて諸手当とはどのように捉えれば良いのでしょうか?
単刀直入に申し上げると、諸手当は無いに越したことはありません。
特に従業員数の少ない中小企業では人件費管理が煩雑になることからも、本来、諸手当は無い方が良いというのが通説となっています。
ただし、諸手当が「採用戦略や社員の定着にはどうしても必要だ」という考え方もあると思いますので、諸手当は必要最小限に留める方向での検討がベターだと言えるでしょう。
まとめ
大企業における賃金制度とは、賃金の支払いルールを定めたものであり、それ以上でも以下でもない存在です。
しかし、中小企業における賃金制度とは支払いルールのみならず、社員のモチベーションアップに繋がらないと意味がありません。
社員は賃金自体の多い少ないではなく、「アイツよりも」、「あの部長よりも」という「相対的」な視点で賃金を捉えているのです。
社員のこのような視点は日頃の会話だけでは分からないものであり、現場に寄り添ったコミュニケーションを行うことで社員の声、ホンネが見えてくるものなのです。
このような社員の声、ホンネを反映させた賃金制度は「語らずして語りかける」ものとなり、結果的にモチベーションアップに繋がっていくのではないでしょうか。
人が働く目的は様々であり、一つに絞ることは難しいと思います。