評価者研修-名選手を名監督にする方法とは?

評価者研修-名選手を名監督にする方法とは?
大橋高広

「名選手、名監督に非ず」、スポーツ界でよく使われる言葉です。

監督という仕事が如何に難しい仕事であるかを表す言葉ですが、これを製造業に置き換えてみたらどうでしょうか。

「名技術者、名評価者(管理者)に非ず」

今回は、評価者研修についてお話したいと思います。

評価者研修とは

評価者研修とは、その名前の通り、人事評価制度における評価者のスキルを向上させるための研修です。

では、評価者のスキルとは何でしょうか?

人事評価制度におけるプレーヤーは「評価者」と「被評価者」です。

言い換えると「上司」と「部下」になりますが、少数精鋭の中小企業、例えば製造業においては「上司=ベテラン技術者」、「部下=若手(新米)技術者」というケースが多いと思います。

このケースの場合、評価者、つまり上司は「ものづくりのスキル」は持っていますが、被評価者、つまり部下の「行動を評価するスキル」は持っているでのしょうか?

具体的に申し上げると、部下に与えられた「整理整頓」という行動目標に対して、「何ができて」、「何ができていないのか」、「できていない理由は何か」といった事実を把握することはできるでしょうか?

人事評価制度を導入したにも関わらず、思うような結果が得られない、費用対効果が低いと感じている中小企業の経営者は多いようですが、その理由の一つは、「評価者のスキル不足」にあります。

技術者としては有能でも、評価者としてのスキルが不足しており、評価者のスキルを向上させなければ、人事評価制度を機能させることはできないのです。

評価者研修の目的

評価者研修の目的は言うまでもなく評価者のスキル向上ですが、そもそもなぜ評価者としてのスキルが不足しているのでしょうか。

中小企業の経営者の中には「人事は誰にでもできる」という考えの方が多いように感じています。

つまり人事にスキルは必要ないと考えているわけですから、人事評価制度の適正な運用には、スキルの向上も不足も関係ないということです。

これでは評価者のスキルが向上するはずがありません。

しかし、何事においても知識や経験があってこそ、業務が遂行できるのであって、人事業務だけが例外だと言えるのでしょうか。

確かに、これまでの人生経験が役に立つ場面はあるかもしれませんが、それだけで業務が遂行できるわけがないのです。

人事業務、言い換えると人事評価制度の適切な運用には体系的に知識を習得する機会、つまり「評価者研修」が必須であり、この目的意識をしっかりと認識することが、とても大切なのです。

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評価者研修では何をするのか?

評価者研修では、具体的にどのようなスキルを向上させるのかと言うと、それは評価者に求められる役割に通じてきます。

役割を実践するためのスキルを向上させていくのです。

評価者の役割とは次の項目に大別できます。

  • 評価事実の記録
  • データの蓄積と共有
  • 人事分析

評価事実の記録

評価事実の記録とは、経理業務における「仕訳」とよく似た内容です。

経理業務では、取引の発生に対して仕訳を行いますが、人事業務では、評価対象となる被評価者の行動に対して記録を行うのです。これが評価事実の記録です。

経理業務では経理部員が持つ「簿記」の知識に基づいて仕訳をするのですが、人事業務では評価者が「簿記」に相当する知識を持っていないために、適切な記録ができないケースが多いのです。

さらに言うと、経理業務ではおかしな取引に対して指導を行うこともしばしばですが、人事業務では評価者のスキルが低い場合、その行動が妥当なのか、あるいはおかしな行動なのかが明確に判断できないケースが多いのです。

これでは社員の育成にも結びつかず、人事評価制度が適切に運用できていないことになります。

では、どうすれば良いのでしょうか?

評価事実を記録するためには、評価者(上司)が被評価者(部下)に対して「報告・連絡・相談」(いわゆる「報連相」)を実施させる能力が必要となります。

一般的に「報連相」を機能させるためには、部下を対象とした研修が必要だと認識されていますが、逆に上司への研修とするのです。

「報告・連絡をしても何の反応もない」、「相談しても、忙しいことを理由に親身に対応してもらえない」といった上司側に阻害要因があると考え、阻害要因を取り除くことを課題として研修を行い、報連相を機能させるのです。

結果として、適切な評価事実の記録が実施されていくのです。

データの蓄積と共有

記録したデータは適切に蓄積されなければなりません。

経理業務では、仕訳データが蓄積され、最終的に決算書となり、財務分析を通じて会社の強み、弱みが把握することができます。

人事業務も全く同じ考え方であり、記録データの蓄積があって、はじめて人事分析を行うことができるのです。

結果として、被評価者の強み、弱みを把握するわけです。

データの蓄積に際しては、ワードやエクセルなどのスキルが求められます。

人事評価に関するITシステムがあれば、さらに便利にデータ蓄積を行うことが可能となり、こういったシステムを使いこなすスキルも求められるでしょう。

なお、ITシステムを導入するだけで、人事評価全てが機能すると理解している経営者も多いのですが、ITシステムだけではコミュニケーションは生れず、生身の人間を評価することはできないと考えます。

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また、データの共有も非常に重要であり、他の評価者の記録データを知ることは知見を広げ、自らの課題解決にも結びつくものです。

具体的な共有に際しては、「評価者会議」という各評価者が「仕事として」集まった場で、直接会話をしながら行うことが有効です。

人事分析

人事分析には、蓄積データから改善策を立案し計画的に実行していくスキルが求められます。

自らが蓄積したデータ、および「評価者会議」で共有されたデータあるいは検討された内容を参考にすることで、机上の空論ではない、実践的な改善策が立案していく能力です。

また、改善策を実行する際に、もっとも重要なのは人事面談です。

人事面談を実施することで、部下と計画を共有して進捗確認をし、さらに指導をしていくということができるわけです。

この際、評価者に求められるのは「話すスキル」と「聞くスキル」であると言えるでしょう。

なお、今後AIの進化により改善策が自動生成されるようになれば、人事評価も大きく効率化されるのではないでしょうか。

ただし、その場合でも進捗確認や、さらなる指導のためには人事面談が必要なことは言うまでもありません。

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まとめ

評価者に求められる能力は多岐に渡りますが、いずれにおいても不可欠なのは「コミュニケーション能力」です。

ベテラン技術者の中には、口数も少なく、黙々と仕事に打ち込むタイプの方もいるかもしれません。

しかし、会社として人事評価制度を導入し、ベテラン技術者を評価者としたのであれば、その主旨を理解させ、体系的な研修を行うことで、名評価者を作り上げていくことが経営者に求められるのではないでしょうか。

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    大橋 高広
    株式会社NCコンサルティング 代表取締役社長|人事コンサルタント・研修講師|東洋経済オンライン記事投稿・日本経済新聞での書籍紹介│新刊『リーダーシップがなくてもできる職場の問題30の解決法』(日本実業出版社)Amazonランキング「マネジメント・人材管理」6位│その他著書『バカはブラック企業に入りなさい』(徳間書店)、『人事部のつくり方』(主婦の友社)│人事制度の設計と運用・管理職研修・職場改善研修・新卒研修・若手社員研修など「人事評価制度の設計と運営」を軸に、「組織文化形成・管理職育成・職場改善」など人事全般に関するサポートを提供